135 Lentinus tigrinus

135-  Lentinus tigrinus        《1890年9月9日

解釈: Lentinus tigrinus  (Bull. : Fr.) Fr.

 【和名:ケガワタケ、マツオウジ属】

 

      Lentinus tigrinus 【ケガワタケ】は、中型の材上性のキノコで、傘の表面は白色で、褐色の鱗片が虎斑状に散在し(種名 tigrinus の由来)、肉は弾力性があり、ひだの縁はしばしば鈍鋸歯状、胞子紋は白色。ほのかに新鮮なバタ-臭がするという人もいる。この種は沼地の近くの caprea グル-プのヤナギ類の朽ち木に発生する。

      菌学的に見てケガワタケは、近種のものに比べて明確な特徴を有することから優良種と言えよう(《優良種》といっても食用的にではない!)。しかしこの種を何処に所属させるかで作家の意見は一致していない。一方は  Lentinus 属【マツオウジ属】とし、他方は  Panus  属【カワキタケ属】としている(近種の Lentinus suavissimus でも同じ意見の相違が生じている)。残念ながらまだ Lentinus 属と Panus 属の定義がはっきりされないままである。

 

136 Lenzites flaccida var variegata betulina

136-  Lenzites flaccida Fries var. variegata 

《樫上、1893年3月11日描き直す、カルパントラ【地名】》

解釈:不確か Lenzites betulina (L. : Fr.) Fr. ?

【和名:カイガラタケ、カイガラタケ属】

      図版のキノコが Lenzites 属 【カイガラタケ属】であるのは確かであっても、図版はかなり模式的なので同定は不確かである。ファ-ブルは図版に《樫上》と記して基物を描いているが、その樹皮は樫に似ていない。

      Lenzites betulina 【カイガラタケ】は腐生菌で、ブナやカシなどに発生するが特にシラカバを好む。切株や落下した枯れ木は菌糸体が繁殖し、それが材に白色の腐朽を起こす。子実体は無柄、傘は片側だけ生長した幅広いうちわ形、表面は綿毛状で同心環紋があり、クリーム色~褐色、時には葡萄酒色でさえあり、中には藻類の付着による緑色もある。縁部は内に巻き僅かに波打つ。ひだは放射状で所どころ癒合し、やや密、クリ-ム色~灰色。肉は初めスポンジ状でかなり薄くやがてコルクのように硬くなり、食用にはならない。

      ファ-ブルが var. variegata と記したキノコは、基準変種よりはっきりとした環紋が見られ、Fries  の多色の Lenzites variegata には似ていない。Lenzites flaccida (Bull.) Fr. の場合は、傘にはあきらかに粗毛があり、縁は波打っているのでファ-ブルの図版のものとは一致しない。

      傘の表面に環紋があるいくつかの種の中で、Trametes versicolor (L. : Fr.) Pil. 【カワラタケ】が少しカイガラタケに似るが、子実層托には孔口があるので除外できる。

 

 

137 Lenzites sepiaria Gloephyllum

137-  Lenzites sepiaria Schaeff. 《1886年12月、アレピン松の切株》

解釈:Gloeophyllum sepiarium (Wulf. : Fr.) Karst.

仏名:Lenzite des clôtures 【塀のカイガラタケの意】

【和名:キカイガラタケ、キカイガラタケ属】

      この図版も前図と同様に、基物が模式的なので、記憶だけで描いたものだと思われる。図版のキノコの中で、傘が比較的褐色で縁がより白っぽいものは、ひだ状の孔口に褐色の染みがあることから老いた子実体だと思われる。ファ-ブルがオレンジ色がかった縁のキノコを一本も描いていないのは不思議である。それ以外は、ひだの典型的な構造や傘が片側だけ生長しているこれらのキノコが 《アレピン松の切株》上で採集されたことと合わせてファ-ブルの同定は正しいと言える。

      このキノコは最初鮮やかな赤褐色やがてクリ褐色になり、縁は淡褐色、初め小さな半円形でのち広がってしばしば幅広いうちわ形になる(いくつかのキノコが屋根瓦状に重なり合っているのもよく見られる)。子実層托はひだ状で不規則に分枝し、初め赤褐色やがてもっと濃い色になる。肉は褐色を帯びた黄色で革のように硬い。これは針葉樹の特に建築材を襲う腐朽菌で、赤色の腐れを起こす恐ろしいキノコである。

      Gloeophyllum sepiarium (Bull. : Fr.) Karst. 【コゲイロカイガラタケ】の傘は細長い棚形で、綿毛状、環紋はキカイガラタケより少なく、ひだはもっと厚く、もっと疎である。この種は建築材に発生する。G. odoratum (Wulf. : Fr.) Imaz. 【ニオイアミタケ】は子実層托はひだ状ではなく、少しアニスのような香りがある。

 

 

138 Lepiota radicata Macrolepiota mastoidea

138-  Lepiota radicata

解釈: Macrolepiota mastoidea (Fr.) Sing.

【和名:なし、カラカサタケ属、カラカサタケ節】

      Macrolepiota mastoidea の傘は径 3 ~ 15 cm,初めまんじゅう形やがて中高の平らになるが、この中心突起はいつまでも残る。表皮は中央部を除いてかなり早期に亀裂が生じ、カフェオレ褐色の細粒点のある少数の鱗片となって、白い綿毛状の表面から剥がれる。

      ひだはクリ-ム色~白色、密、離生あるいは少し隔生。柄はかなり細めでむしろ短く、7 - 15  × 0.3 - 2 cm、上部で細まり、下部は大きな球根状、表面は成熟するにつれて淡い色の微細鱗片状にひび割れる。つばは一重で丈夫、白色のち多少黄土色。

      この種は8月-11月、広葉樹の林内や牧場にふつうに見られ、美味しいキノコで味に癖がなく、快い香りがあるが時には無臭。

      図版にはそれぞれ発育過程の異なる子実体が描かれており、つばは初め傘縁に接合しのち漏斗形ついにはペチコ-ト状になる進化の状態が観察できる。傘縁は裂け、柄は白色~褐色がかった黄土色であり、これらはすべて M. mastoidea の特徴である。ところでファ-ブルが記した学名の Lepiota radicata は菌学の著作中には見つけることができなかった。

 

 

139 Marasmius oreades

139-   Marasmius oreades  《1889年5月23日、

サン・テステ-ヴ【地名】の裏にある砂地の芝生

解釈: Marasmius oreades (Bolt. : Fr.) Fr.

仏名: Marasme des oréades 【山の妖精のホウライタケの意】

【和名:シバフタケ、シバフタケ属、ホウライタケ節】

      Marasmius oreades 【シバフタケ】の傘は 2 - 6 cm、最初は円錐形のちまんじゅう形ついには平らになり、中心には常にゆるやかな突起があり、湿気の多い時は赤褐色、乾燥時には褪色し、黄褐色、帯赤淡黄褐色あるいはクリ-ム黄土色になる。ひだは疎、ほてい腹状、離生-湾生、クリ-ム白色やがて帯黄革色になる。柄はかなり細長く、2 - 10 × 0.2 - 0.8 cm、折れにくく、かなり硬い、乾燥時にはしばしばねじれ、表面は淡黄色か黄土色がかったクリ-ム色、基部はしばしば白色の短い軟毛におおわれる。

      極めてありふれたこのキノコは5月~11月、草地にしばしば菌輪を作って発生する。肉は辛味がなく、ハルガヤのようなシアン化水素の快い香りがあり、食用でとても美味、乾燥させても使える(ホウライタケ属は水に戻すと蘇生する能力がある)。

      通常湿気のある時は、傘縁はしばしば花網状で、濃い色の中心突起があるが、ファ-ブルの図版にはその特徴が見られないので、かなり乾燥した時期に採集されたものだと思われる。しかし図版のキノコは柄の基部が長い根状で黒い綿毛状の菌糸におおわれているが、この種にしては珍しいことである。

 

 

140 Mycena polygramma

140-  Mycena polygramma        《1892年10月6日》

解釈:不確か  Mycena polygramma (Bull. : Fr.) S.F. Gray ?

【和名:アシナガタケ、クヌギタケ属、クヌギタケ節】

      Mycena polygramma 【アシナガタケ】の傘は 1 - 4 cm、円錐形-鐘形のちまんじゅう形、帯灰暗褐色、黄土褐色、淡黄褐色、ときには黒色、条線があり、老いると縁部は反転する。ひだは疎、直生-やや離生、類白色のち灰色、成熟すると淡い桃色になることもある。柄はとても細長く、4 - 18 × 0.1 - 0.6 cm、上下同大、基部は根状で菌糸束があり、表面は銀灰色または灰青色で光沢があり、柄の長さの縦線がはっきり見られる。

      このキノコは辛味はなく、香りは全く無いか僅かに快い香りがする。肉はあまりにも薄いので食用としての価値はない。

      8月-11月、広葉樹林の切株や枯れ枝に束生するありふれたキノコである。

      図版のキノコは、傘の色が白っぽく、ひだは少し桃色が勝ちすぎ、柄の色も薄すぎ、基部は根状ではない。アシナガタケは柄の長さに沿って細かい縦線があるのが主な特徴であるが、図版には平滑か雑なすじしか見られない。

 

 

141 Mycena sp

141-  Mycena sp.   《1889年4月1日、

Ligustrum japonicum 【ネズミモチ】の下部の樹皮、

自宅の庭、水の中で蘇生する》Sur l'écorce à la base d'un Ligustrum japonicum, Le jardin, revient dans l'eau.

解釈:不確か

【訳者註: Marasmius pulcherripes Peck ?(ハナオチバタケ)】

 

      ファ-ブルはこのキノコが《水の中で蘇生する》と記しているので、Mycena 属【クヌギタケ属】であるとは思えないが、仮にそうだとしてもせいぜい Mycena albaMycena alnetorum の少々色合いの濃い一品種だと思われるが、しかし傘と柄の長さが当てはまらない。Mycena clavularis はもっと薄い色で、図版のように傘が平らなのは珍しい。Mycena bulbosa は全く別の基物に発生するキノコである。いずれにしてもクヌギタケ属は水の中で蘇生しない。

      図版のキノコはむしろMarasmius 属【ホウライタケ属】の一種だと思われる。傘を見ると、Marasmius androsaceus 【オチバタケ】か Marasmius hygrometricus あるいは Marasmius graminum 【ヒメホウライタケ】を想わせるが、柄の基部と生育環境が図版のキノコと違っている。

      ファ-ブルの水彩画の正確さは明白なので、このキノコは偶然にまぎれ込んだ特例的ヨ-ロッパ産としか考えられない。

 

 

142 Mycena polygramma galericulata

142-  Mycena polygramma《1893年8月6日描き直す》

解釈: Mycena galericulata (Scop. : Fr.) S.F. Gray

【和名:クヌギタケ、クヌギタケ属、クヌギタケ節】

      Mycena galericulata【クヌギタケ】の傘は 2 - 6 cm、鐘形のち中高の平ら、表面は帯灰褐色、淡黄褐色、ベ-ジュがかった灰色あるいは類白色で小じわがある。ひだはかなり密、幅広く、鉤で柄に付着し、初め白色のち淡いクリ-ム色ついに桃色になる。柄はとても細長く、2 - 12 × 0.2 - 0.8 cm, しばしば曲がり、硬く、表面は帯白灰色か暗褐色である。

      このキノコは、味は粉っぽく、香りは無いか少し大根臭があり、食用としての価値は少ない。極めてありふれたキノコで、5月-12月、さまざまな樹木の切株や枯れ枝に束生する。

    図版のキノコは大きな株で柄は長いが、傘の条線が中心まであるのはかなり稀である。しかし外観やひだが白色からのち桃色になるのはこの種の特徴である。なん本かの傘は中心部がより濃色であり、この特徴もしばしば見られる。断面図からは、幅広いひだや薄い肉や柄が管状であるのが確認できる。

 

143 Mycena polygramma galericulata & Collybia longipes Oudemansiella

143-【左】  Mycena polygramma      《1886年10月28日》

解釈:   Mycena galericulata (Scop. : Fr.) S.F. Gray

【和名:クヌギタケ、クヌギタケ属、クヌギタケ節】

      私達のこの図版のキノコの解釈は図版142と同じである。更につけ加えると、ここでは柄の下部が暗褐色であり、それはかなり頻繁に見られる特徴である。通常この種の柄の基部には朽ち木に浸透している擬根が見られ、図版の柄のようなねじれた下部は珍しい。

 

  【右】  Collybia longipes      《1886年10月24日》

解釈: Oudemansiella longipes (Bull.) Moser

 【和名:ビロードツエタケ、ツエタケ属】

      Oudemansiella longipes 【ビロードツエタケ】の傘は 3 ~ 8 cm、鐘形のち中心部にしばしばゆるやかな突起を残したまま平らに開きついには中心部がくぼむ。表面は 淡褐色、帯褐黄色あるいは淡黄褐色、中心部はもっと濃い色で細毛が密生する。ひだはやや密、幅広く、柄に対して直生-やや離生、通常は白色稀に黄色であ る。柄はとても長く、5 ~ 20 × 0.3 ~ 2cm、折れにくく、しばしばねじれがあり、下部は徐々にふくらみ、基部でふたたび細まって長い根状となり深く地 中に入り、表面は全体が金褐色あるいは淡黄褐色の軟毛におおわれる。

      肉は香りがなく、味はやや苦いので食用としての価値は少ない(変種の O. badia の肉は辛くない)。

      8月-10月、頻繁ではないが通常明るく開けた林内の埋れ木に単生する。

      図版のキノコは成菌で、この種の特徴がとてもよく表わされているが、三本の子実体はまるで束生しているように描かれているが実際は散生である。

 

144 Mycena vitilis amygdalina & Lepiota cristata & Collybia dryophylla

144-    【左上】 《属、種 ? 樫上》

      このキノコはひだが最初青っぽくのちさび色になるフウセンタケ属の一種であるが、正確な記載がないので同定は不可能である。それにファ-ブルが記している発生場所が《樫上》とあるのはおそらく間違いだと思われる。

【左下】 Mycena vitilis Fries

解釈:Mycena amygdalina ((Pers.) Sing.

【和名:ニオイアシナガタケ、クヌギタケ属】

      Mycena amygdalina の傘は 0.5 ~ 2.5 cm、まんじゅう形あるいは円錐形のち平らになり、表面は多少とも灰褐色、ベージュ色がかった灰白色、暗褐色-黄土色、縁部はそれより薄い色合で、長い条線があり、肉は薄い。ひだはやや密、上向直生、黄白色あるいは灰白色。柄は細長く屈曲し、 4~ 12 × 0.1 ~ 0.3 cm、光沢があり、基部は根状で白色の粗長毛におおわれる。

      この種は無味無臭あるいはヨード臭があり、9月~2月、地上あるいは枯枝か枯葉に単生し、ふつうに見られるキノコである。

      図版のキノコは以上の記述に全く一致する。しかし通常この種の柄は傘とほとんど同色の少し淡い色合いだが、図版のものは柄が傘より濃い色である。あるいは柄がしばしば褐色または暗褐色である近種の Mycena filopes (Bul. : Fr.) Kummer かもしれない。

 

  【右上】  Clitocybe membranaceus        《ヒース》

 解釈:不確か

      ファ-ブルが記した Clitocybe membranaceus の学名はヨーロッパの植物誌には存在しない。 Lange の Flora Agaricina Danica の著作にある  Clitocybe infundibuliformis var. membranacea は別のものである。図版のキノコは今まで知られているどんなカヤタケ属の種にも似ていない。

  -C. costata Kühn. & Romagn. は色が異なる。

  -C. houghtonii (Bk. & Br.) Dennis はひだがそれほど垂生していない。

  -C. obbata Fr.は通常傘縁に条線はあるが溝線ではない

      長く垂生するひだや、傘の径と柄の長さの対比、傘縁に溝線があるといった特徴から  Quélet の Omphalina 属か Lamoure の Omphaliaster 属または Kühner の Fayodia 属あるいは Hora の Myxomphalia 属の一種ではないかと思われる。たとえば:

  -Omphalina grisella (Weinm.) Moser とも考えられる。これは公園や草地に生える極めてありふれたキノコで、傘の径 0.5 ~ 1.5 cm、灰色、老いると中心は窪み、傘縁は条線があり、しばしば波形、ひだは弓形に垂生し、淡い灰色。柄は 1 ~ 3 × 0.1 ~ 0.3 cm、灰暗褐色のち淡褐色になる。

  -Omphalina griseopallida (Desm.) Quél. が同じく考えられるが、傘はむしろ褐色であって灰色ではなく、またひだもかなり濃い色で灰白色ではない。

    はっきりした記載がない以上、この図版のキノコに学名を付けることは難しい。

 

【右中央】  Lepiota cristata Bolton  《1885年11月30日、ヒ-ス》

解釈: Lepiota cristata (Bolt. : Fr.) Kummer

【和名:キツネノカラカサ、Stenosporae 節、キツネノカラカサ属】

 

      傘は 1 ~ 5 cm、最初まんじゅう形あるいは卵形のち中心突起を多少とも残したまま平らに開き、褐色、黄褐色または帯赤黄土色。表皮は平滑な頂部以外は細かく壊れて鱗片となり、それは縁部になるほどサテン状の白色の地肌に散在している。ひだは密で離生、軟弱、白色あるいはクリ-ム色、稜は小鈍鋸歯。柄は短く細く、2 ~ 6 × 0.2 ~ 0.8 cm、下部で少し膨らみ、帯赤白色のち帯赤の淡黄褐色。つばは初め漏斗形のち垂れ下がりついには消えてしまう。

    このキノコの肉は少し辛く、臭いは複雑で蝋引きした布のような不快な臭いがある。有毒だとされているがその可否は不明。7月~11月、広・針葉樹林によく見られる。

    図版の三本のキノコはいずれも成熟した子実体であることがよくわかる。断面図を見ると、ひだはほてい腹状で幅広く、つばは漏斗形であるが、通常成熟したものにはこの形は見られない。柄が傘の中心に付いてないのは単なる偶然で、重要な特徴ではないと考える。

【右下】  Collybia dryophila

【解釈: Collybia dryophila (Bull. : Fr.) Kummer 

【和名: モリノカレバタケ、Laevipedes (モリノカレバタケ)節】

    この種の全体の特徴については図版57を参照。

      図版57と違ってファ-ブルはここでは、柄の下部に膨らみや細根を描いていない。しかしこれらの特徴はいつも一定しているとは限らない。図版のキノコは極端に乾燥や湿気の著しい時期に採集されたのではないことは、傘の中央部が縁部よりはっきりと濃い色、つまり Hygrophane であることからわかる。柄が単一色というのが気になるが、全体の様子はやはりこの種のものである。