191 Scleroderma corium Mycenastrum

191-  Scleroderma corium De Candolle         《1887年9月15日、胞子:10-12》

解釈: Mycenastrum corium (Guers. : D. C.) Desv.(1842)

異名: Bovista suberosa Fr.

【和名:なし?腹菌亜綱】

 

      図版のキノコは最初南国系の種である Scleroderma polyrhizum Gmel. : Pers. (= Scleroderma geaster Fr.)【ツチグリカタワタケ】を想定したが、しかしよく観察すると、多くの特徴がファ-ブルが同定した Scleroderma corium と一致する【この種は以前 Scleroderma 属であったが、現在では Mycenatrum 属に位置している】。

      図版のキノコに見られる重要な特徴は、外殻皮は薄くほどなく消失し、永続性の内殻皮は分厚く頑丈であり、子実体の成熟につれて星形に裂開する。もし Scleroderma polyrhizum であるならば、逆に外皮は厚く星形に裂開し、当然内部には内皮の名残りが認められ、ファ-ブルはそれを描いたはずである。それに、図版のキノコが本当の  Scleroderma 属【ニセショウロ属】であるならば、子実体の基部はもう少し大きく力強くなければいけない。また胞子の色に染まった図版の内壁は  S. polyrhizum より淡い赤紫色である。その上、三個の胞子の絵の下にファ-ブルが記入したサイズは S.polyrhizum にしては大きすぎる。Romagnesi の著作によれば、《鱗片のない》 M. corium と  《はっきり鱗片状にひびわれた》 S. polyrhizum に区別される。従って以上の記述から図版のキノコはファ-ブルの同定した通りである。

      M. corium はヨーロッパではかなり稀で、フランスではきわめて稀なキノコである。この種は腹菌亜綱に属し、地上生あるいは半地中生、瓦礫や人間の生活に密接した土地、明るく開けた林内の乾いた土壌や沿道、牧草地、砂土の庭園、乾いて日当たりの良い場所、海岸砂丘、ステップの芝などに発生する。

 


 

192 non nommé

192 ー      《1889年9月20日、1893年4月2日描き直す》

解釈:不可能

      基物のせいですぐに Ustilago maydis (=Ustilago zeae)を想起した。この種はトウモロコシの特に雌穂に寄生し、子実体は白色、時には膨大な大きさのものを見ることがある。そのうえ殻皮は図版のものほど厚くなく、星形には裂開せず、頂部からおおまかにひび割れ、内部には濃赤褐色の胞子が見られるが、図版のものは帯紫黒色である。従ってこの最初の仮説は破棄される。

      もう一つのより真実らしく思える仮説は、腹菌亜綱の前図(Mycenastrum corium) と同種か、あるいは Scleroderma polyrhizum ではないだろうか。二種とも殻皮は厚く星形に裂開するが、図版の真ん中の子実体が胞子嚢を内包しているように見られるところから、もしそれが内皮であるならば、むしろ S. polyrhizum の方がより近いと思われる。いずれにしても、胞子はきちんと隔離されているので、殻皮の内側は外側同様胞子による汚れはまったく見られない。図版191と比べるとその違いは歴然としている。

      しかし推測ばかり多く、確信に至る十分な理由を見つけることができない。トウモロコシに発生する腹菌亜綱は一種も知られておらず、いったいファ-ブルのキノコは何というのか謎である。このトウモロコシの代わりに他のどんな植物であろうとも、直に《食料庫》の上に発生したと言う例は、ニセショウロ属では見たことがない。

 


 

193 Scleroderma verrucosum

193 -  Scleroderma verrucosum        《1891年9月25日》

解釈: Scleroderma verrucosum (Bull. : Pers.) Pers.

【和名:ザラツキカタワタケ、ニセショウロ属、Culeatispora 節】

 

      ファ-ブルの同定は間違いないと思われるが、図版だけでは正確なことはいえない。

      Scleroderma verrucosum (Bull. : Pers.) Pers. 【ザラツキカタワタケ】と近種のScleroderma areolatum Ehrenb. 【ヒメカタショウロ】を見分ける方法は、顕微鏡による胞子の大きさと刺状突起の長さを比べることだが、図版ではそれは不可能であり、その他の特徴は二次的なものでしかない。しかしながら  ザラツキカタワタケの子実体の表面は、わずかに壁孔状であり、《ダマジカの革》状のヒメカタショウロよりはむしろ図版のキノコに近いと思われる。

      もう一つの近種である Scleroderma bovista Fr. 【ハマニセショウロ】は生育地が図版のキノコと同じで、有力な候補であるが、それもやはり二次的な要因でしかない(S. verrucosum も同じ生育地)。

      実際に問題なのは、胞子紋が網状かあるいは刺状の突起を有するかどうかであり、図版からはこれ以上の解答を期待することはできない。

      図版のキノコが S. verrucosum であると解釈した理由は、子実体の下部の白色であり、他方、S. bovista にはほとんどいつも、赤葡萄酒色か少なくともこの色の丸い染みが見られることである。

      S. verrucosum はヨーロッパではきわめて普通、フランスでは普通に見られるが、北部になるほど少ない。この種は腹菌亜綱で地上生、暑い気候を好み、堆肥などの混ざった柔らかい土壌、乾いた土地や多少とも砂地、木の根元、林内、公園、沿道、庭園などに発生する。

      独特の臭気は、むしろ不快で、金属臭あるいはインク臭があり、無味。近種の S. citrinum Pers. : Pers. と同様、この種もその黒い色のために、トリユフの名前を冠して不正に肉の加工品に使われている。毒性についてはっきりしたことは不明であるが、疑いを持たれているキノコである。

 


 

194 Sistotrema confluens Phellodon cf

194 ー  Sistotrema confluens         《1893年10月》

解釈:不確か Phellodon confluens (Pers.) Pouz. ?

【和名:なし、クロハリタケ属】

 

      図版のキノコは、多数が癒合し、柄は頑丈で、ビロード状、傘は白色であり(図版の右側のキノコ)、断面図に見られるように針は白色といった特徴は、間違いなく Phellodon 属【クロハリタケ属】の一種である。ファ-ブルは間違って、他属の同種名である Sistotrema confluens (Pers.) Lundell を同定したのではないかと思われる。【1965年発行の本郷・今関共著「続原色日本菌類図鑑」の図版251には Sistotrema confluens はヒメハリタケモドキとされている。】

      図版だけでクロハリタケ属のキノコに正確な種名を付けることは難しい。

      Phellodon confluens は多数の子実体の柄の基部が癒合し、また傘も癒着する。傘の表面は初め微毛が密生するがのちほとんど無毛の不規則な凹凸状、白色のちクリーム色~黄褐色。柄は頑丈で下部は密毛におおわれ、初めは白色のち褐色になる。時には大きな傘の上に小さな傘がいくつもくっつきあっているのが認められる。子実層の針は長さ1~2mm,最初白色のち灰色。肉は傘部で白色~灰褐色、柄部はもっと濃い色である。

      この種はブナ、クリ、カシなどの広葉樹林や混合林の腐植土に発生する。分布は局限的であることから、食用の可否はあまりよく知られていない。

      Phellodon tomentosus (L. : Fr.) Banker は S. confluens と同様、傘は最初白色だがたちまち中心部からニッケイ褐色~黄褐色に変わる。下面の針は灰色、柄は細長く、黄褐色~濃褐色。春~夏、針葉樹の林内に発生する。柄が細長く、傘縁が長い間白色で、表面は綿毛におおわれ、環紋があるといった特徴から S. confluens と区別することができる。


 

195 Stereum hirsutum

195 -  Stereum hirsutum         《1893年10月29日》

解釈: Stereum insignitum (Wild. : Fr.) S. F. Gray

【和名:キウロコタケ,キウロコタケ属】

 

      図版のキノコは傘の形、オレンジ色の子実層、小枝の上に発生するといった三つの特徴によって、ファ-ブルの同定が正確であることを示している。Stereum insignitum (Wild. : Fr.) S. F. Gray 【キウロコタケ】は半背着生、半円形~多数が横に癒着した棚形、多数重生、革質。傘は幅3~10cm、縁部は波形~耳たぶ状、表面はオレンジ黄色で灰白~黄土色の粗毛を密生し、同心環紋が見られる。下面の子実層は鮮黄色~帯褐色。しばしば地上に落ちた広葉樹の枯枝や小枝(時には坑道の柱木)に発生する一年生のキノコで、白色腐朽を起こす。極めて普通に見られるキノコで、食用にはならない。

      Stereum rameale (Pers. : Fr.) Fr. の傘はもっと小さく、類白色~帯黄灰色。下面は初め白色のち黄色。

      Stereum insignitum Quél. はブナ林にしか発生しないと言われている。傘はとても薄く、幅広いうちわ形、表面はさび褐色の地にそれよりもっと濃い色の環紋が見られ、傘縁は波形~みみたぶ状。下面は初め淡黄土色だがやがてもっと濃い色になる。白色腐朽を起こし、食用にはならない。

      その他のウロコタケ属はほどんど背着生で、稀に小棚形のものもある。

 


 

196 Stropharia coronilla

196 ー Stropharia coronilla        《1891年10月18日》

解釈:不確か Stropharia coronilla (Bull. : Fr. ) Quél.?

【和名:コシワツバタケ、モエギタケ属】

      図版のキノコは、傘やひだの色、条線のあるつば、かなり頑丈そうな柄の様子などから、ファ-ブルが同定したように  Stropharia coronilla (Bull. : Fr. ) Quél. 【コシワツバタケ】  だと思われる。

      通常 Stropharia coronilla は初めまんじゅう形のち平ら、淡黄色~オレンジ色、やや粘質。ひだは紫がかった粘土色のち

紫褐色。柄は上下同幅あるいは下部に向かってふくらみ、再び基部で急に細まり、表面は白色。つばは白色で、上面はしばしば胞子の色に染まる。肉は厚く、白色。春~秋、草地や牧場、林内の明るく開けた場所などに発生する。食用にはならない。

      Stropharia aurantiaca (Cke.) Orton の傘は Stropharia coronilla と違ってオレンジ赤色で、湿気の多い時期にはやや粘性を帯びる。柄はもっと細長く、白色。肉は傘部でクリーム色、柄部では赤褐色。ひだは帯淡黄オリーブ色。公園や庭園に発生する稀なキノコである。

      Stropharia hornemannii (Fr. : Fr.) Lund. & Nannf. は前記二種よりもっと大型のキノコで、傘は初め淡い黄土色のち帯紫褐色、傘縁には被膜の名残りが付着している。ひだは帯灰紫色。膜質のつばから下の柄は白色で鱗片が見られる。この種は広葉樹林の落葉落枝層に発生する稀なキノコである。