181 Russula adusta albonigra

181-  Russula adusta    《1893年3月20日描き直す》

解釈: Russula albonigra (Krombh.) Fr. 【albonigra=白黒】

【和名:なし、ベニタケ属、クロハツ節】

      ファ-ブルが Russula adusta (Pers. : Fr.) Fr. 【コゲイロハツタケ】と同定した図版のキノコは、確かに左側の白いキノコの柄の下部は、ウラスジチャワンタケのような深い縦しわがあって、この種の特徴に一致する。しかしこの縦しわは安定したものではなく、図版の右側の黒いキノコにはそれが見られない。またこの特徴は時には近種の Russula densifolia (Secr.) Gill. 【クロハツモドキ】などにも見られる。

      図版のキノコの傘、柄、肉の断面の著しい黒変は Russula nigricans (Bull.) Fr. 【クロハツ】辺りを想起させるが、それにしてはひだがあまりにも密すぎるし、クロハツは図版のように黒変がここまで進むと、ひだもすでに黒くなっているのが普通である。

      もし R. densifolia 【クロハツモドキ】であるならば、ひだは図版のものよりもっと密で、傘もあまり黒変せず、オリーブ色と褐色の色合いがいつも見られる。しかし図版には傘と柄が真っ黒なキノコが描かれている。

      柄の上部にくっきりと白いはちまきのように残された部分は R. acrifolia Romagn. 【日本では未知種、acrifolia=辛いひだ】を想わせるが、この種が有する黄土色、ハシバミ色、赤褐色がやはりここでも見られない。 Russula anthracina Romagn. にしても同様で色合いが異なる 【anthracina=無煙炭色】。

      従って最も確実性が高いと思われる解釈は,Russula albonigra (Krombh.) Fr. 【日本では未知種】である。図版に見られるように、ファ-ブルが文字通りほとんど純粋な白色と黒色だけでこの絵を描いている。ひだの淡い象牙色と成熟した子実体の黒色との特徴的なコントラストが、この図版にはとてもよく表わされている。

      ファ-ブルの時代の参考文献であった Quélet の Flore には Nigricantinae 亜節【クロハツ亜節】としてクロハツとコゲイロハツの二種が記載されているにすぎない (Quélet は Portentosae 亜節の下にこれらを位置させている)。従ってファ-ブルが、図版のキノコを躊躇なくコゲイロハツと同定したことは、十分にうなずけることである。当時でも R. albonigra の学名はすでに存在していたが、まだ異名としてしか考えられていなかった。


 

 182_Russula_delica

182-  Russula delica        《1892年11月4日》

解釈:不確か Russula delica Fr. ? 【delica=乳液のない】

【和名:シロハツ、ベニタケ属、シロハツ節】

 

      もし本当に乳液がないことを確認できれば、図版のキノコは全体が白っぽく、チチタケ属の典型的な外観を有するので、ファ-ブルが同定した通り  Russula delica Fr. 【シロハツ】である。それにこの種の特徴である傘縁は内に巻き、肉は中心部から縁の方へ向かってだんだんと薄くなっているのが断面図には見られる。

      しかし、図版の大きいキノコは逆に、傘の周辺部の肉はかなり厚く、傘は独楽状で、少しオウギタケかクロラッパタケを思わせる。しかしこのような特徴は全く無いわけではないが、一般に図版のような外観とは少しく異なる。

      Quélet によれば、シロハツは《本来傘は雪のような白色だが、背中で腐植土を持ちあげてくるのでしばしば暗褐色である》。通常この種の子実体には、ほとんどいつも植物の屑や土が付着し、汚れは洗っても落ちない。生長時にはこの異物は菌糸の中に取り込まれて、ついには表皮の下にさえも見られるようになる。写真ではこの腐葉土などの残滓が確認できるが、絵画においては、画家の意図するものしか描かれていない。

      図版のキノコと違って、通常成熟したシロハツの傘には艶がなく、ひび割れて、黄土色と褐色の不規則な染みが表われ、なんとなく汚れた感じがある。

      Quélet によれば Fries は R: delica の他に《成菌で、汚れた》外観を持つ R: delicaR. elephantina と命名している。


 

 183 Russula emetica gr sp

183-  Russula emetica      《1893年10月13日》

解釈: Russula sp. (groupe emetica) 【emetica=嘔吐性の】

【和名:ドクベニタケ群の一種、ドクベニタケ節】

 

      図版のキノコはファ-ブルが同定したように  広義の Russula emetica (Schaeff. : Fr.) S.F. Gray 【ドクベニタケ】である。しかし現代の多数の菌学者は emetica のグループをいくつかの種や変種に分類している。

      図版にはこの群の主な特徴がよく表わされており、傘は赤色だが多少褪色し、中央部には黒っぽい染みはなく、縁部には溝線が見られる。柄はかなり短く頑丈。ひだは白色で胞子紋もおそらく白色であろう。

      図版のキノコが Russula fragilis (Pers. Fr.) Fr. 【コベニタケ】であるとは思われない。この種は小型のきゃしゃなキノコで、R. emetica と同様、肉はとても辛く、壊れやすい 【 fragilis の学名の由来】。傘は赤色~紫色と変化に富み、中心部はもっと黒っぽい。

      図版に見られるような傘の赤色は R. fragilis の近種 R. knauthi Sing. を思わせるが、やはりこの種も傘の中央部は黒色なので、排除することができる。

      Russula rubra (Lamk. : Fr.) Fr.  【ウスクレナイタケ】は、傘の色や肉の辛さは R. emetica  に似るが、胞子紋とひだは黄土色、肉はとても硬いことで異なる(Quélet によれば Russula 属の中で肉が一番硬い種である)。

      ファ-ブルの時代には R. rosacea Pers. として R. lepida (Fr. : Fr.) Fr. 【ヤブレベニタケ】と R. sanguinea (Bull.) Fr. 【チシオハツ】の二種が同じ学名で呼ばれていたが、emetica  群の種もまた混同された可能性は十分にある。

      この図版だけで正確な解釈はできないが、emetica  群には以下の種や変種がある(別種とする学者もいる):

  -基準変種の var. emetica は頑丈なキノコで、傘の表皮は剥がれやすく、鮮紅色、時には多少とも褪色した赤色、肉は傘の表皮直下や他の部分は白色で、極めて辛く、僅かに果物あるいはココナッツを思わせる独特の香りがある。ひだはやや密、白色。この種はトウヒの林内や沼地のこけやみずごけに発生する。

  -R. emetica var. silvestris Sing. は基準種より褪色が著しく、肉も壊れやすい。ケイ質砂土の林内ことにブナを好む。

  -R. mairei Sing. の傘は肉が厚く、充実し、柄は太短い。傘の表皮直下の肉は桃色、全体の肉は多少とも黄変する。、石灰質の土壌を好み、ブナ林に発生する稀なキノコである。

  -R. fageticola (Melz.) Lund. は R.mairei と同じく、傘の表皮直下の肉は桃色だが、肉はそれほど硬くなく、ひだは密。ブナ、カシの林内に発生する極めて普通に見られるキノコである。

  -R. luteotacta Rea は肉、柄の表面,ひだ共ゆっくりと鮮やかな黄色に変わるので、簡単に区別することができる。しかしいくつかの黄変しない品種もあるのでその場合の識別は困難である。

  -また、emetica 群ではないが、R. persicina Kromh. は R. fageticola によく似るが、ひだは成熟時に淡黄土色になるので区別することができる。

      以上のキノコは現在、地中海地方では知られていないか、滅多に見ることができなくなってしまった種である。しかしファ-ブルは、この図版に先立つ1893年10月4日に R. emetica と記したもう一枚の水彩画を描いている。

 


 

Russula_integra_184184- Russula integra Linné

Russula_integra_185185- Russula integra    《1893年8月30日描き直す》


Russula_integra_186
186- Russula integra       《1892年9月4日》

187_Russula_integra187- Russula integra   184 - 187 Russula integra

解釈:不確か



ファ -ブルは、ほとんど同じ外観や色合いのこれら四枚の図版すべてを R. integra (L.)Fr.【ヨヘイジ】としている。図版185は184を描き直したものと思われる。

図版186以外のキノコには、褐色の色合いが 見られず、カ-ミンや帯紫灰色の二つの色は、混ざり合うことなくそれぞれ単一の色で描かれている。

し かし Integrinae 節では多くの色が混然としているのが普通である。当時の R.fusca Qu l.は現代解釈では多くの学者が R. integra としており、傘は褐色~黄褐色である。また f.purpurella Sing.は濃い紫色~赤紫色,f.grisella Sing.は灰色、また f. pseudoolivascens (Sing.) Bon は緑色がかっている。

Quélet の記述によれば R. integra の傘は赤紫色、赤色、赤褐色、褐色の各色にオリーブ色が混ざった色合いであるが、ファ-ブルの図版には緑色や褐色が見られない。その上、図版187の柄に ははっきりと赤い染みが見られるが、この特徴も R. integra には珍しいことである。

ファ -ブルがこれらのキノコを R. integra と同定したのは、間違いなく肉には辛味がなかったからだと思われる。しかし肉に辛味がなく、胞子紋が黄色の種は他にたくさんあり、いずれも顕微鏡的特徴の 検査なしには確かなことは言えない。図版の赤いキノコだけを見ると、まったく R. pseudointegra Arn. & Gor.であるが、通常この種の肉はかなり辛く、地中海地方では知られていないキノコである。その上図版のもう一方の傘が帯紫灰色のキノコもこれまた問題 である。

Viridantinae 節【ニオイベニハツなど】の種は、ひだが明らかに淡い色合いなので排除できる。

ま た R. integraR. romellii  Maire 以外の他のIntegrinae Integroidinae 節の種には、傘が図版のようにはっきりとした色合のものは少なく、また地中海地方では珍しいキノコである。しかし、R. romellii の傘が赤色というのは珍しく、通常見られる主な色調は緑色である。

もう一つの可能性は Olivaceinae 節【クサイロアカネタケなど】の特に R. alutacea (Pers. : Fr.) Fr.である。しかし以前は数種のキノコがこの同じ学名で呼ばれており、Quélet でさえ R. integra は 《 R. alutacea に似ている》と記しているところから、いくつかの可能性が考えられる。

Olivaceinae 節の種は地中海地方ではかなり普通に見られるが、文字どおりオリーブ緑色が主な色調であるところから図版のキノコとは異なる。R. vinosobrunnea (Bres.) Romagn.でさえも傘はオリーブ色や褐色であり、近種の R. paraolivacea Bon は秋に地中海地方、特にコルシカ島、ポルクロール島などでかなり普通に見られる大型のキノコで、胞子紋は鮮黄色、柄は下部がやや膨らみ、しばしば桃色の染 みが見られる。傘はファ-ブルの四枚の図版に近い赤色で、しばしば褪色しているかまたはくすんだ紫色、時には淡紫色である。傘の表面には Olivaceinae 節の他のどの種よりもはっきりとした同心円状の微細なひびわれが見られることから、同時に条結局、現在あるいは以前の解釈を当てはめても、図版のキノコが R. integra だと断定できるどのような確証も得るこはできなかった。

Les quatre planches désignées par Fabre comme Russula integra ont été réunies dans l'ouvrage "Champignons de Jean-Henri Fabre" (Citadelles, 1990) car elles montrent une remarquable homogénéité dans les couleurs [que nous ne sommes pas autorisés, hélas, à reproduire ici !], sinon dans les formes. Il est vrai que la pl. 185 est une seconde version exécutée à partir de l'aquarelle no. 184 et les deux exemplaires sont presque superposables. Un petit exemplaire rouge a été ajouté et le gris violet d'un des chapeaux est nettement plus foncé. Les mêmes couleurs se retrouvent sur la planche 187, mais l'on note en plus une teinte rose sur les pieds de deux exemplaires, en tache assez forte sur l'un d'eux. Cette coloration n'existe pas sur les russules que nous nommons 'integra' de nos jours, ou alors d'une manière très exceptionnelle.
 
Ce qui est le plus étonnant ici, c'est qu'il ne figure partout que deux couleurs, un rouge carminé très pur, exempt de brun (sauf pour la pl. 186) et un violet grisâtre. De plus, ces couleurs ne se mélangent jamais, à la différence de ce que l'on observe avec les russules "versicolores", dont la plupart des individus présentent des superpositions, des juxtapositions de tons ou des marbrures.
 
On constate enfin que deux couleurs sont totalement absentes de ces carpophores : le brun et le vert jaunâtre. Or, ces deux couleurs sont celles que l'on observe de nos jours avec le plus de fréquence, sur les chapeaux de R. integra. Il existe même la forme pseudoolivascens (Sing.) Bon où domine le vert et celle-ci n'est pas très rare.
 
Il est vrai que l'on peut trouver chez cette espèce un rouge pur (dans la rare forme "purpurella", mais qui n'est pas typiquement décolorante). De même, une tonalité d'un gris uniforme existe chez la variété "grisella", tout aussi rare.
 
En conclusion, l'espèce représentée ne correspond pas à l' "integra" que nous connaissons de nos jours et pas plus, semble-t-il, à l' "integra" décrite par Quélet comme ayant "un chapeau purpurin, rouge, bai ou brun et olive". A cette époque, c'était "R. fusca" qui correspondait d'une manière plus satisfaisante à notre conception actuelle de R. integra, comme l'ont suggéré de nombreux auteurs, et ce nom marque bien la présence essentielle de brun sur la cuticule. Mais Quélet lui attribue une sporée blanc crème, ce qui alors jette un doute.
 
La détermination de Fabre laisse à penser que l'espèce avait une saveur douce et, pour essayer de chercher ailleurs (dans les douces) on pourra retenir qu'il s'agit d'une russule douce à spores jaunes. La tentative paraît hasardeuse, car c'est justement le cas où l'emploi du microscope s'avère le plus nécessaire pour s'avancer avec quelque assurance.
 
Si l'on ne prend en compte que les exemplaires rouges, les dessins de Fabre correspondent de façon satisfaisante à "R. pseudointegra". Mais sa saveur est assez âcre et l'espèce manque en région méditerranéenne. De plus, il faut compter aussi avec les exemplaires gris violets.

Christian Dagron (SMF)

 


 

188 Russula foetens

188-  Russula foetens      《1890年10月1日》

解釈: Russula foetens Pers. : Fr. 【foetens=むかつくような臭いの意】

【和名:クサハツ、ベニタケ属、クサハツ節】

      図版のキノコは一目で Russula foetens Pers. : Fr. だとわかる。大きな傘は黄土色で、柄は紡錘形、特に傘縁には、中心部の放射状のしわにつながる長い溝線があり、溝と溝の間には結節が並んでいる。もしファ-ブルが断面図を描いていたならば、さらにこの解釈は柄部に連なる小空洞によって疑いのないものになったに違いない。

      以前の R. foetens は現在ではいくつかの種に分類され、この中で R. foetens によく似るのは R. subfoetens Smith と R. illota Romagn. などである:

  -R. subfoetens Smith の傘は R. foetens よりもっと小さく、柄は細長く、胞子もより小さい。肉は辛味や悪臭も少なく、また空気に触れると黄変し、KOH試薬では黄金色に変わる。

  -R. illota Romagn. の傘は R. foetens より淡い色合いだが中央部はやや紫色がかり、ひだの稜に沿って典型的な黒褐色の細点がある。

      しかしファ-ブルのキノコは R. subfoetens  や  R. illota よりもむしろ基準種の R. foetens だと思われる。

      地中海地方では R. subfoetens は R. foetens よりもっと頻繁に発生するキノコである。


 

 

189 Russula lactea ss Melz & Zvara vesca

189-  Russula lactea      《1890年10月12日》

解釈: 不確か Russula vesca Fr. forma lactea ss. Melzer & Zvara ?

【和名:チギレハツタケの一品種】

 

      ファ-ブルが記した学名の Russula lactea から 現代の菌学者はすぐにヤブレベニタケの白色型である R. lepida (Fr. : Fr.) Fr. var. lactea Möll..【ユキハツ】を想起する。しかし図版のキノコは傘の中心部がくぼみ、縁部にははっきりと溝線が見られ、柄は短いといった特徴から、ヤブレベニタケやユキハツとは思えない。

      実際には多くのベニタケの種に、時には通常の色とは異なった白色の子実体が見られるが、それは白化現象と言われ、例外的な事故のようなものである。しかし図版のキノコは三本とも白化現象によるものだとは考えられない。

      Quélet の Flore には R. lactea と R. incarnata Quél. はとても似ているので 《 R. incarnataR. lactea の近種あるいは変種でさえある 》 と記している。この二つの種が現代ではどのキノコに該当するのか不明である。Bresadola が記述している R. vesca var. lactea という白化現象の品種であるのか、あるいは Singer の白色の R. rosea だろうか?または Lilacinae 節の一種かも知れない。

      図版だけでは決定的な要因不足であるが、一歩駒を進めるために私達の解釈をいえば、図版のキノコは R. vesca Fr. 【チギレハツタケ】の老いて色褪せた子実体ではないかと思われる。菌学の著作にはこのような品種のキノコが R. vesca var. lactea ss. Melzer & Zvara として記述されている。


 

 

190 Russula queletii torulosa cf

 

190- Russula queletii    《エスコフィエ松林、1891年11月21日》

解釈: 不確か Russula torulosa Bres. ?

【和名:なし、ベニタケ属】

 

      ファ-ブルの時代の Russula queletii は広義の解釈であり、現代解釈の次の種が含まれていた:

  - R. drimeia Cke. (= R. sardonia Fr.)

  - R. queletii Fr.

  - R. torulosa Bres.

      図版のキノコの傘は中央部がくぼみ、縁部には溝線がはっきりと見られ、R. drimeia に一致するが、ひだはほとんど白色であり排除するこができる。

      図版のように傘縁に溝線があり、中心部が凹んでるのはむしろ R. queletii の特徴であるが、柄の表面が紫青色どいうのは珍しい。それにこの種は石灰質の土壌を好み、山地のトウヒ林に発生し、地中海地方ではあまり見られないキノコである。反対にR. torulosa は平野の松林を好み、地中海地方ではかなり普通に見られる。

      図版のキノコは柄が頑丈で短く、特に右の子実体の柄は表面が紫青色で、全体の外観も R. torulosa と一致する。

    現代の R. torulosa は当時は《平野の R. queletii 》と呼ばれ、ファ-ブルは地中海地方の松林でこのキノコを採集しており、図版のキノコは  R. torulosa ではないかと思われる。