118 Lactarius deliciosus

119 Lactarius deliciosus

118-  Lactarius deliciosus Linn.

119- Lactarius deliciosus        《1888年11月8日》

解釈: 不確か Lactarius deliciosus sensu lato 【デリシャスなチチタケの意】

【和名:なし、ハツタケ節、チチタケ属】

 

      図版のキノコは間違いなく広い意味での Lactarius deliciosus であり、ファ-ブルの時代にも、人参色の赤い乳液を分泌し、特に傷ついた箇所の肉が緑変する全てのオレンジ色系のチチタケを一括してそう呼んでいた。通常このキノコの柄は傘と同色であるが、ファ-ブルの図版118、119の二枚とも柄は白色である。

      その後 Lactarius deliciosus 群を(デリシャスと言うにはほど遠いが)多くの種に分類したが、自然が《意地悪》をして各種の典型的な記述から僅かにでも外れたキノコを出現させると、もう判別するのは難しい。

      現代解釈によるLactarius deliciosus (L. : Fr.) S.F. Gray は松林に発生するが、普通柄にはあばた状のくぼみがある。図版のキノコは、トウヒの林内に発生する柄にくぼみのない Lactarius deterrimus Gröger を想定できるが、図版の傘は環紋があまりにもはっきりしすぎている。他方、モミ林の L. salmonicolor Heim & Leclair 【アカモミタケの近種】には、図版に見られるような緑色の染みがないことで除外できる。

      ファ-ブルのキノコは L. deliciosus かあるいは L. deterrimus なのか図版だけで同定することはできない。    

      以上の二種と L. salmonicolor は、いずれも食用になるがあまり美味しくない。中でも  L. deterrimus は不味いことで知られている。しかしこと味に関しては十人十色である。さらに付け加えると、これらのチチタケが有する乳液の人参赤色の色素は、《食いしん坊》の生体内で吸収されず、尿がその色に染まるが無害である。

 

120 Lactarius deliciosus 21 9bre 1891, Refait juillet 1892 v vinosus

120-  Lactarius deliciosus, var. à lames vineuses 【ひだが赤葡萄酒色の変種】

  《1891年11月21日、1892年7月描き直す》

解釈: Lactarius vinosus Quél.【赤葡萄酒色のチチタケの意】

 【和名: なし、ハツタケ属、チチタケ節】

      現代解釈の Lactarius deliciosus は肉を傷つけると乳液は人参赤色だが、L. vinosus の肉は傷つけるとすぐに赤葡萄酒色の乳液が表われる。ファ-ブルの断面図にはその特徴がうまく描かれている。

      この赤葡萄酒色の乳液という特徴から直ちに Lactarius sanguifluus (Pavel) Fr.を、いやもっと正確には、図版にも見られるが、ひだが赤葡萄酒色で柄がかなり白っぽい L. vinosus を思い起こす。L. sanguifluus と L. vinosus はもともと南ヨーロッパ産の種であり、とくに L. vinosus はパリ地方のような北部にはほとんど発生しない。

      食用としての価値は異論はないと思われるが L. vinosusL. sanguifluus の二種だけであり、南仏では非常に好まれているキノコである。北の地方の人々は思い込みと種の混同から、人参赤色の乳液のあるチチタケを、葡萄酒色の乳液のものと同様料理的価値があると思っている。その影響を受けてかFries 自身も deliciosus と記述している。

 

121 Lactarius piperatus cf vellereus

121-  Lactarius piperatus

解釈:難しい Lactarius vellereus (Fr. : Fr.) Fr. ?

【和名:ケシロハツ、ツチカブリ節】

      図版のキノコは、全体が白っぽく、柄は短く、ひだはかなり疎なので、ファ-ブルの学名の記載がなければ、むしろ Russula delica 【シロハツ】を想わせる。当然ファ-ブルは破損した肉片から乳状の滲出液を確認したのちこれらをチチタケにしたのだと思われる。しかしファ-ブルが同定した種名の piperatus 【ツチカブリ】は、ツチカブリ群のキノコにしては、ひだがあまりにも疎すぎる。ツチカブリのひだはきわめて密なので、ひだ同士が重なり合っているようでまったく隙間は見えない。

        ファ-ブルの図版のようなひだが疎なキノコは、白色のチチタケであるvellereus 【ケシロハツ】群に見ることができる。しかしながら、図版の傘の表面は平滑であるが L. vellereus ((Fr.) Fr. のほうは密綿毛におおわれていることが知られている。たとえル-ペで傘の表面の微毛が見えたとしても、キノコ全体を写真や水彩画にするにはそれはあまりにも微細すぎる。科学的に見て高レベルの多くの現代の図版を調べても、この微毛を確認することはできなかった。

      図版のキノコの傘縁は厚く、波打ち、柄は短く頑丈といった特徴は、ケシロハツという私達の解釈を堅固にしてくれる。通常ツチカブリの傘縁は薄く、平らで、最初内に巻きのち広がり、柄は図版のものよりもっと細長い。

        ケシロハツは大型のキノコで、傘の径は通常 10 ~15 cm,肉は辛く、秋に発生するが、ツチカブリは肉は同じく辛いが、初夏から見ることができる。

 

122 Lactarius scrobiculatus

123 Lactarius scrobiculatus refait mai 1893

122-  Lactarius scrobiculatus   《サランシュ、1890年9月4日)

123- Lactarius scrobiculatus    《サランシュ、1890年9月4日)

解釈: Lactarius scrobiculatus (Scop. : Fr.) Fr.

【和名:キカラハツタケ、カラハツタケ節】

      Lactarius scrobiculatus 【キカラハツタケ】はしばしば700~1500mの亜高山地帯に見られ、とりわけ石灰質の土壌や針葉樹を好んで発生する。かなり大型のキノコで、傘の径はふつう10~15cm、表面は通常多少とも汚れた黄色であるが、菌学の著作には時には濃いオレンジ色もあると記述されており、ファ-ブルの図版123に見られる通りである。

      図版のキノコの傘縁部はこの種の典型的な内巻きで、表面には曖昧な環紋が見られ、僅かに綿毛状だが、あまりにも微細なため写真や水彩画に表わすのは難しい。柄には scrobiculatus の種名の由来であるあばた状のくぼみがはっきりと見られる。肉は非常に辛い。乳液は空気に触れるとたちまちレモン黄色になり、白い肉の上ではよく目立つ。しかしもともと黄色である傘の表面では、その乳液の色はあまり目立たない。

124 Lactarius serifluus

124 - Lactarius serifluus     《1893年4月28日描き直す》

解釈: 難しく、不確か

      このオレンジ褐色のチチタケを水彩画だけで同定するのは、たとえそれが正確に描かれているにしても難しい。ファ-ブルが Lactarius serifluus と記したのは、水のような無色の乳液を確認したためだと思われる。従って同じような外観を持ち、乳液が白色のすべてのチチタケを除外して考えることができる。

      しかしそれでもまだ乳液が無色の L. camphoratus, L. cremor, L. serifluus とその近種、L. cimicarius, L. subumbonatus などの多くの種が残っている。もしファ-ブルの図版が Lactarius serifluus (DC. : Fr.) Fr.であるならば、この種とその近種や L. camphoratus 【ニセヒメチチタケ】が有する独特のチコリ臭【カレー粉に近い臭い】がする筈である。

      通常 L. serifluus の傘は僅かにオレンジ色がかった褐色で、この図版のような濃いオレンジ色ではないので、ひだのオレンジ色とのコントラストが素晴らしい。肉と乳液は、他の無色の乳液を有する種と同様ほとんど辛味はない。

 

125 Lactarius cf subdulcis

125 - Lactarius subdulcis      《1893年10月13日》

解釈: 不確か Lactarius subdulcis (Pers. : Fr.) S.F. Gray ? 

【和名:ヒメチチタケ、ヒメチチタケ節】

 

      図版124と125のキノコは、外観がほとんど同じようである。図版124の傘は中心がくぼみ、濃色であるが、図版125の傘は単一色で、中心のくぼみには突起がある。しかし、この違いだけで別種のキノコとするわけにはいかない。

      ファ-ブルが subdulcis 【ほとんど辛味のないの意】と呼んだからには図版のキノコの肉は辛くなかったはずであり、肉が辛い近種のチチタケのすべてを同定から除外できると思われるが、それでもまだ多くの同じ外観をした肉のほどんど辛くない種が残っている。そのうえ図版のチチタケは乳液が無色ではないと仮定しなければいけない。それにファ-ブルは誰の解釈のsubdulcis か記していない。彼の時代には、赤褐色のチチタケのグル-プは、まるで恐ろしいジャングルのように、いくつもの別種のキノコが混同されて同じ名前で呼ばれていた。

      図版のキノコは少しオレンジ色すぎるが、現代解釈の Lactarius subdulcis (Pers. : Fr.) Fr. だと言えよう。このチチタケはブナ林の石灰質の土壌を好み、通常傘の色合いはオレンジ色よりもむしろカフェ・オ・レ色に近い。肉はほとんど辛味がなく、乳液は空気に触れても変色せず、僅かに《カメムシ》の臭いがある(しばしばこの嗅覚が同定の大きな助けとなる)。

  

126 Lactarius torminosus

126 -  Lactarius torminosus          《1889年11月25日》

解釈: おそらく  Lactarius torminosus (Schaeff. : Fr.) S. F. Gray

仏名:Mouton, Lactaire à toison【羊、羊毛のあるチチタケ】

【和名:カラハツタケ、カラハツタケ節】

 

      Lactarius torminosus【カラハツタケ】は中型のキノコで、傘は径 5 ~10 cm,表面は典型的なれんが色で不鮮明な同心環紋があり、たくさんの軟毛におおわれ、縁部に向かうほど長い綿毛状になる (torminosus の種名の由来)。ファ-ブルの図版にはこの綿毛がはっきりと見られる。乳液は白色でほとんど変色性はなく、肉は辛い。このキノコはシラカバ属の林内にかなり普通に見られる。

      同じくシラカバ林に発生する近縁の Lactarius pubescens (Schrad.) Fr. 【軟毛のあるの意】は、傘は薄い桃色時には白色、肉はカラハツタケと同様に辛く、同じく著しい綿毛状の軟毛におおわれる。その他に、菌学の著作には同じような特徴を持った L. blumiiL. cilicioides が知られているが、誰の解釈かを明確にしないと, L. pubescens の異名とみなされる。

      チチタケ属はこのような分類上の問題を抱えているので、有能な専門家がこの属の今迄のすべての記述を調べ直し、終始一貫した方法で各種の解釈を明確にすることが切に望まれる。