99 Hygrophorus puniceus Hygrocybe punicea l

99-  Hygrophorus puniceus (!!)   《サランシュ【地名】1890年9月20日。胞子は白色。

とても壊れやすく、サテンのような光沢を持ち、粘質ではない。味や香りに特徴はなく、ひだは疎》

解釈:Hygrocybe punicea (Fr. : Fr.) Kummer

異名:Hygrophorus puniceus Fr. : Fr. 【ザクロ、ヒナゲシの赤色の意】

【和名:ヒイロガサ、ヒイロガサ節、アカヤマタケ属】

 

      ファ-ブルの同定は正確である。しかし図版のキノコはサランシュから、息子のエミール・ファ-ブルが送ってきたもので、少し乾燥気味である:傘は縁が裂 け、ひだは傘とほとんど同色。さらにファ-ブルが記し《サテンのような光沢を持ち、粘質ではなく》は私達の推論に一致する。

        ヒイロガサは初めはきれいな深紅色のち図版のようなオレンジ色がかった赤色になる。傘は鐘形で波打っている。柄は赤褐色がかった黄色、下部は白色、成熟す るにつれて柄の内部は小さな空洞が連なる。肉は柄の下部(白色)を除き黄色っぽく、ファ-ブルが記しているように味や香りに特徴はない。ひだは直生~ほと んど離生、最初黄色で段々と赤褐色になる。

      このキノコは秋に牧場や草地を好んでよく発生する。食用で珍重されている。

      Hygrocybe coccinea (Schaeff. : Fr.) Kummer 【ベニヤマタケ】はヒイロガサより小さく、ひだは鮮やかな赤色になり、ひだの先端は黄色。柄の下部は白色ではない。このキノコも秋に特に牧場に発生する。

 

100 Hygrophorus conicus Hygrocybe conica

100-  Hygrophorus conicus      《1893年10月5日》

解釈:Hygrocybe conica (Scop. : Fr.) Kummer

異名:Hygrophorus conicus (Scop. : Fr.) Fr. 【円錐形のアカヤマタケの意】

【和名:アカヤマタケ、アカヤマタケ節、アカヤマタケ属】

 

      ファ-ブルのこの解釈は確かだと思われる。傘は尖った円錐形ではっきりと波打ち、鮮やかなオレンジ色などはこの種に通常見られる特徴である。図版のキノコはまだ一本も黒くなっていないので、おそらくかなり若い子実体だと思われる。

      アカヤマタケは秋に牧場に生えるが、時には大きな群れの発生が見られることもある。このキノコは傘は最後まで円錐形、オレンジ赤色から深紅色まで、柄は鮮 やかな黄色。キノコ全体はこすったり古くなると黒変する。ひだはやや密で淡い黄色。肉には特別な香りはない。

        Hygrocybe nigrescens (Quél.) Kühn. (= pseudoconica Lange)  はアカヤマタケに近い種だが、より大きく、柄はもっとはっきり微繊維におおわれ、のち青灰色に変わり、同じく牧場に発生する。

        Hygrocybe conicoides (Orton) Orton & Watl.はもっと大きく、傘はゆるやかな中高で、鮮やかな赤色、僅かしか黒変しない。このキノコは海辺の砂丘に限って発生する。

        Hygrocybe tristis (Pers.) Moller は以上の全てのキノコに近い種だが、傘の色がくすんだオレンジ色で時には緑色がかることもある。

 

 

101 Hygrocybe conica

101-  Hygrocybe conica (ファ-ブルは名前を付けなかった)

解釈: Hygrocybe conica (Scop. : Fr.) Kummer

【和名:アカヤマタケ、アカヤマタケ節、アカヤマタケ属】

 

      傘が円錐形で波打っているこのキノコは鮮やかな赤色系のアカヤマタケだと思われる。図版に見られるように、一本は完全に黒変し、右の二本は柄の下部が既に黒く染み始めている。おそらくファ-ブルは前図のものより古いキノコを描いたのだろう。柄はねじれているが、ヌメリガサ科ではよく見られることで、この種だけの特別の特徴ではない。

      この小型のキノコが食用かどうかはあまりよく知られていない。

 

 

102 Hygrophorus discoideus

102-  Hygrophorus discoideus   《1893年6月末に描き直す》

解釈:Hygrophorus discoideus (Pers. : Fr.) Fr. 【円盤状のヌメリガサの意】

【和名:チャヌメリガサ、チャヌメリガサ亜節、Fulventes 節、ヌメリガサ属】

      ふつうチャヌメリガサは、初期に柄と傘の縁をつないでいた粘質の内被膜がつば状のゾーンとなって残っているが、図版のキノコの柄にはそれが見られないので、ファ-ブルのこの同定には多少疑問が残る。しかし、傘の黄土色がかったベージュ色~さび色、中心部は赤褐色、柄は中部でやや膨らみ、下部は細まるといった二つの特徴はこの種と一致する。

      ファ-ブルのキノコはちょっと図式的なので、多分この水彩画を描き直したのではないかと思われる(柄の上部の細点は分類上の重要な特徴ではなく、いくつかの種に見られるものである。)

      チャヌメリガサは、傘がやや粘性、柄は乾性といった特徴からヌメリガサ属の一節に属する。明るく開けた松林に発生する食用キノコである。

      同じ節の Hygrophorus nemoreus の傘はチャヌメリガサのほとんど二倍ぐらい大きく、表面は淡黄褐色がかったオレンジ色、縁部はもっと薄い色合、放射状の微繊維をおびる。ひだはやや湾生~僅かに垂生、白色~桃色がかったいくつかの色合いがある。柄の表面には細粒点が見られ、チャヌメリガサと違ってコルチナの痕跡はない。肉は僅かに粉臭がする。広葉樹林に発生する食用キノコである。

 

 

103 Hygrophorus eburneus

103-  Hygrophorus eburneus  《1893年3月20日に書き直す》

解釈: Hygrophorus eburneus (Bull. : Fr.) Fr. 【象牙色のヌメリガサ の意】

【和名:シロヌメリガサ、シロヌメリガサ節、ヌメリガサ属】

 

      図版のキノコは、柄はかなり頑丈で、明るく開けたカシ林に見られる Hygrophorus penarius Fr. を思わせるが、しかしファ-ブルの同定は正確だと思う。

      シロヌメリガサは、傘は最初まんじゅう形、のち平らになり、真っ白。柄も同じく白色で下部に向かって細まり、粘性を帯びる。ひだは垂生、白色。ファ-ブルは柄の上部に細粒点を描いたが、それは若い子実体の通常の特徴である。肉も白色でかなり厚い。夏と秋、ブナの林内に発生する食用キノコだが、あまりその価値はない。

      柄がもっと頑丈な Hygrophorus penarius Fr. はむしろ明るく開けた樫林でよく見られる。

      シロヌメリガサに近種の Hygrophorus cossus  (Sow.) Fr. 【クサヌメリガサは】は、傘はセーム革の色合いがあり、肉はボクトウガ (Cossus cossus)の強烈な臭いがする。

 

104 Hygrophorus limacinus latitabundus

104-  Hygrophorus limacinus  《トウーロン市  サン・マンドリエ 【地名】1893年12月5日》

解釈: Hygrophorus latitabundus Britz. 【隠れているヌメリガサの意】

異名: Hygrophorus limacinus (Scop. : Fr.) Fr. 【粘着質のヌメリガサの意】

【和名:なし、コケイロヌメリガサ節、Limacium 亜属、ヌメリガサ属】

 

      傘は褐色がかった灰色、中心部はもっと濃い色、ひだは白色、疎。柄はややほてい腹状で粘着性のつば状のゾ-ンがあるといった特徴は、ファ-ブルの同定を裏付けるものである。

      Hygrophorus latitabundus は秋に石灰質の松林に発生し、食用キノコだが、料理の前にゼラチン状の表皮を取り除かなければいけない。

      近種の Hygrophorus persoonii Arnolds (= H.dichous Kühn. & Romagn.) 【コケイロヌメリガサ】は広葉樹林によく見られ、傘はオリーブ褐色、表面はかなり粘性をおび、縁は長い間内側に巻いている。柄はしばしば紡錘形、褐色がかった厚い粘着物におおわれ、上部のあたりは白色。ひだは白色、直生~垂生。図版のキノコと同じく傘のゼラチン質を取り除けば食用である。

      同じ節の Hygrophorus olivaceoalbus Fr. : Fr.は、傘は中高で、柄はもっと細く、カラマツや時には泥炭地に発生することで識別される。

 

105 Hygrophorus robustus pudorinus

105-  Hygrophorus robustus  【頑丈ヌメリガサの意】    《1891年11月4日》

解釈:不確か Hygrophorus pudorinus (Fr. : Fr.) Fr. 【つつましい(桃色になるから?)ヌメリガサの意】

【和名:フキサクラシメジ、シロヌメリガサ節、ヌメリガサ属】

 

      ファ-ブルが手記している学名の著者の名前が不鮮明なので、これが誰の robustus かよく解らない。図版のどっしりしたキノコには、柄の上部に粒点があり、傘縁は最初は内側に巻き、一番大きいキノコのひだは赤色になっているといった特徴から Hygrophorus pudorinus 【フキサクラシメジ】が想定される。大きいキノコはかなり古く見えるので、おそらく息子のエミ-ル・ファ-ブルがサランシュから父に送ってきたものだと思われる(フキサクラシメジは山岳部の針葉樹林内に成育する)。もしそうであれば、一般にこのキノコはサランシュではもう少し早い時期に発生すると思われるのだが...

      フキサクラシメジは、傘は肌色がかった淡黄褐色で中心部はふつう濃い褐色。ひだは厚く、疎、はじめは白色やがて縁部から赤くなる。柄はとても頑丈で最初粘性をおび、上部には乳状の小さなしずくの微細点があり、下部は黄色くなる。肉は締まり、モミのつぼみのような快い香りがする。

      Hygrophorus poetarum Heim 【詩人のヌメリガサの意】は通常ブナ林に成育し、傘は多少肌色がかる。柄は紡錘形で小さな水滴の微細点がある。肉はペル-バルサムか Inocybe corydalina 【ムラサキケマンの花の香りのアセタケの意】の香りを発する。

      以上のキノコは、チャヌメリガサや H. nemoreus のように Fulventes 節(柄は乾性、傘は僅かに粘性をおびる)に属する。

 

 

106 Hygrophorus russula

106-  Hygrophorus russula

解釈:Hygrophorus russula (Schaeff. : Fr. ) Quél.

仏名:Hygrophore russule, Vinassier 【ベニタケの色、葡萄酒のヌメリガサの意】

 【和名:サクラシメジ、Rubentes 節、Neocamarophyllus亜属、ヌメリガサ属】

 

      傘には赤葡萄酒色の染みがあり、ひだの縁は赤葡萄酒色をしているといった特徴は、ファ-ブルの解釈を全面的に支持するものである。そのうえ断面図からは、肉は厚く、ひだはこの種の典型的な垂生であることが窺われる(ひだは時には僅かしか垂生しないこともある)。

      一般にサクラシメジは、傘の表面には赤葡萄酒色の染みが見られ、縁部は最初内に巻き、しばしば波打っている。ひだはかなり密、直生やがて垂生、柔らかく、最初は白色だがのち赤葡萄酒色の染みができる(図版の右の古いキノコのように)。柄は頑丈で、下部は細まり、硬く、上部は粒点があり、古くなるに連れて傘と同じ色になる。肉は白色で締まっていて厚い。味と香りは薄いが、かなり好まれているキノコで、火を通すと肉は黄色くなる。

      サクラシメジはどちらかといえば南国のキノコで、晩秋、明るく開けた樫の落葉層に発生する。

        サクラシメジはしばしばひだと柄が紫色の染みのあるいくつかの種が集まった Rubentes 節に属する。

      Hygrophorus capreolarius (Kalchbr.) Sacc.【ヒメサクラシメジ】は紫色がかった褐色で多少染みがある。柄の下部は白色が目立つ。ひだはとても疎。このキノコは山岳部の針葉樹林に発生し、オウギタケ科とりわけ Chroogomphus rutilus 【クギタケ】を思い起こさせる。