36_Boletus_pachypus36 -   B. pachypus     《1890年9月20日  -  ブルイエール【地名】》
解釈:不確か、Boletus torosus Fr. ?
異名:Boletus xanthocyaneus (Ramain) ex Romagn.
【和名:なし、(イグチ属)】

      この図版は、私達をまだ大いに議論されている不確かな世界に導いていく。それは赤色や黄色の孔口を有し、肉は空気に触れるとすぐ青変する大型のイグチで、一般には Boletus satanas  と同じだと思われている。火を通すと食用になるが、珍しいキノコなので、その保護のためにできるだけ採らないほうがいい。

      この膨大なイグチの主な特徴は、少しオリーブ色がかった傘と、赤葡萄酒色がかった柄の下部以外は子実体全部が黄色である。柄には美しい網目があり、肉は強く青変する。

      最近の菌学者の解釈では、それはおそらく  Boletus  torosus  であろう。このイグチは指で触れただけで全体が、とくに珍しいことだが傘の部分が青黒く変わる。この色の変化は気候が温暖で湿っている時はとても早いが、 乾燥した気候で風がある場合はとても遅い。青いしみのない子実体を採集することは、ほとんど不可能である。傘の青変は遅く表われるので、おそらくファ-ブ ルは、そのしみを汚いと思って、この図版に描かなかったのではないかと推測される。

      同じ群の中には、B.rhodopurpureus (昔は  B.purpureus  と呼ばれた)の黄色い品種も知られている。それは少しの人にしか知られていないが稀なキノコではなく、傘の表面が赤紫で孔口面はやや赤色であり、B.torosus  と非常に間違いやすいので、この解釈に疑問符を付けた。現在一番確かな判別方法は、子実体の大きさを計り、同じ成育状況の  B.rhodopurpureus  と比べてみると、  B.torosus  の方がより大型のキノコである。             

      Boletus  pachypus とファ-ブルが付けた名前はとても古い名前で、いろいろな食い違う解釈を引き起こしたので、長い間捨て置かれていたが、最近再び使われるようになったが、ファ-ブルとは違う解釈で用いられている。

 


 

37_Boletus_purpureus_non_reticule

37-  Boletus purpureus var.non reticulée 【網目のない変種】          《1889年11月18日、1892年》

解釈:Boletus lupinus Fr. 【狼イグチ の意】

【和名:なし  (イグチ属)】

      この図版のイグチは B. satanas に近い網目のない珍しい種の一つです。実際の採集にあたって、網目がなければ同定はとても楽になるが、図版では、ほんの僅かに識別できる網目を描き忘れる 可能性も考えられる。しかしファ-ブルの図版は彼の自筆で《網目のない》と書かれているので全く問題はない。傘の縁部は《色あせたバラ色》で、中心部の色 は不鮮明でカフェオレがかった黄色いクリーム色、孔口はレンガ色で縁に向かってだんだん淡い色合になり、黄色っぽい柄にほのかな赤色が見られるなどの特徴 を総合すると Boletus lupinus になる。ファ-ブルの図版は、現代の有名な菌学者  H. Romagnesi が、1948年に出した図版に奇妙にも似ている。 B. lupinus の種の解釈はいろいろと議論もあったが、Romagnesi の研究によってはっきりした。100年前、ファ-ブルはこのイグチを、網目を持つあいまいな 《purpureus》 のグル-プに位置させるしか方法がなかった。彼の採集したキノコは、網目がなかったにもかかわらず、おそらく、B. purpureus の《変種》であろうと思った彼の感はすばらしい。

    B. lupinus は南仏からブルゴーニュの辺りまでは珍しくなく、北部では散在している。日当たりの良い石灰質の土を好み、樫林のはずれ辺りに Boletus satanas と一緒に発生する。


 

38_Boletus_purpureus_non_reticule38 -     【網目のない変種】    《1887年9月(...),1892年》

解釈: Boletus lupinus Fr.  【狼イグチ  の意】

【和名:なし  (イグチ属)】

      この図版は37番と同じ名前の Boletus purpureus var. と比べると同定がそれほど簡単ではないが、ファ-ブルが個人使用のため、同種同名にしていたことは、判別に重要な手掛かりを与えてくれた。管孔の 色、傘の淡い色合いや縁部の僅かに桃色、といった三つの点は前図同様 Boletus lupinus と現在呼ばれているイグチに一致するが、柄の特徴は、とても異例なのでそれには当てはまらない。柄の下部が紫色なのは B. lupinus にも可能であるが、この特徴が安定している Quélet のイグチ (Boletus queletii) が考えられる。しかし、傘の灰色と縁部の桃色はこの推定を覆してしまう。何故なら、慎重に細部を描いたファ-ブルのこの図版のイグチの柄にはその網目が見 られない。Boletus queletiiB. lupinus か二者択一である。強いて結論を出せば、この図版のイグチは、柄の特徴が異例という条件付きで Boletus lupinus である。

 


 

39 Boletus purpureus

39 ー  B.purpureus        《1892年9月8日》

解釈:Boletus  rhodoxanthus  (Kr.) Kall.

同義語:Boletus  purpureus  Pers. (数人の作者の解釈)

【和名:なし(イグチ属)】

      ファ-ブルの時代、この図版の種は菌学界においてほとんど知られていなかった。1836年にさかのぼる正式な記録があるにしても、Kallenbach 氏の描いたとても美しい図版によって、1925年から  Boletus  rhodoxanthus  の名前で知られ始めた。

        このイグチが長い間、サタン・イグチ(Boletus  satanas)と混同されてきたのは、傘が灰色がかった白色、孔口は赤、柄の上には赤い網目があるといった同じ特徴を持っているからである。この二つの種をはっきり区別するいくつかの特徴といえば
: B.rhodoxanthus  の成長した子実体では、傘の縁部はいつも桃色であり(B.satanas  ではごく稀)、孔口はもっと濃い赤の単一色、柄はもっと円筒型、網目はもっと柄に広がりもっと黄色い地の上にもっと鮮やかな赤色であり、肉はもっと鮮やか な黄色である。それにこの二つのキノコは臭いがそれぞれ違う。

      1890年代でさえ、このキノコをサタン・イグチとはっきり区別したファ-ブルは、この種の驚くほど典型的な図版を描き、その時代のどの菌学者よりも、はるかにこの種を深く知っていたと言える。ファ-ブルも使ったように、長い間このイグチは  Boletus  purpureus  と呼ばれ続けていた。

 


 

40_Boletus_tuberosus_satanas40 -Boletus tuberosus  Bulliard  satanas Lenz     《1891年9月8日》

解釈:BBoletus satanas  Lenz

仏名:BOLET-SATAN      【サタン・イグチ  の意】

【和名:なし  (イグチ属)

      そうです、これこそ本物だ!みんなが知っているかあるいは知っていると思っているものだ!「サタン・イグチ」ほどみんなに親しまれているキノコは少ない。 何という言葉の魔力!醜いともいえるこの物凄い塊から何か毒が出て来るようで、この名前が無邪気な採集者を二歩も後退りさせる。しかも指で触れただけで、 この肉は青く変り邪悪な存在であることの良い《証拠》です。そうではありませんか?

      何たる偏見!このキノコは上から見ると、傘は白っぽい灰色で、青緑がかり、確かにあまり美しいキノコではないが、一度手にしてみると、とてもきれいな赤い孔口と赤い網目がほていさんの腹のような柄にきちんと並んでいるのは快い驚きである。

      毒性にしても何たる寓話!今日の一般的解釈では、このキノコはよく火を通すと無害だと言われているが、近年このキノコに起因すると疑いをもたれた死亡事故 が、一件あったのであまり試してみたいとは思わない。逆に、生で食べるとすぐに激しい嘔吐に見舞われるが、何人かの勇気ある人がこの不愉快な経験を買って 出た。毒性についてはこれだけであり、森の殺人者ではなかったことがお解りでしょう。それに比べ、猛毒のテングタケの誤食は助かるチャンスが一つもない。

      サタン・イグチは暑さや、カシの木、石灰質を好み、中央山地群を囲む周辺によく発生し、北になるほどだんだん少なくなっていく。独特の強くしつこい臭いがあるので、このキノコをよく知っている人は《目をつむっても》わかるという。

      ファ-ブルのすばらしい図版は、この種の特徴をとてもよく表わしている。

      ファ-ブルがこのキノコに使った最初の名前  B.tuberosus  は、  Lenz  の  B.satanas  より以前に  Bulliard  によって命名されたものである。この  Bulliard  の B.tuberosus  は、植物命名国際規約の解りにくい  法律的  理由によって、最近まで使うことはできなかったが、規則の変更に伴い、今後、優先的に用いられる可能性があり、それは法的な論争に持ち込まれるだろう。も し  tuberosus  が取り上げられたならばこのサタン(悪魔)は怒るかもしれない。

 


 

 

41_Boletus_collinitus41-B.collinitus  Fries      《1889年9月7日》

解釈:Boletus  subtomentosus  L.:Fr.(=Xerocomus  subtomentosus [L.:Fr.] Quél.【ほとんど密綿毛のあるイグチ  の意】

仏名:BOLET  SUBTOMENTEUX

【和名:アワタケ  (アワタケ属)】

      この図版のキノコは、ふつうのものに比べると柄が少し尖りすぎ、下部の色も少し濃すぎるところを除けば、アワタケのほとんどの特徴を備えており、特に全体のシルエットと柄の上部の様子から、一目で他のキノコと混同することはないと思った。

      ファ-ブルは何故この  B.collinitus  の名前を使ったのたろうか?この本質的な特徴から、はっきりと同定ができたはずである:B.collinitus  の傘は平滑で粘質(特に粘質型のイグチの一つ)であり、他方、B.subtomentosus  は反対に傘がフエルトのようで(subtomentosus  の意)、乾いている(乾いたイグチの一つ)。従って、ファ-ブルの図版のものは傘の表面が粘質とはおもえない(よくいって平滑)。

      ファ-ブルの考えの所以を知るには、彼の時代の背景や菌学界の事情を考慮しなければならない。Fries(1838年)の  Boletus  collinitus は長い間、解釈に疑問が持たれていたのであまり使われず、Quélet  だけが使っていた。最初は  Quélet も  Fries(1886年)と同じ解釈をし、次いで独自の解釈を確立してからは、粘質という表現を使わなくなった(フロラ、1888年)。もしファ-ブル が  Quélet の最新の栄光あるフロラしか使わなかったのであれば(ファ-ブルのこの図版は1889年なので、この著作の発表から僅かのことであった)、彼のこの同定が 理解できる。現代解釈のB.collinitus  は  Fries  の原本よりやや簡単になり、Boletus  granulatus  と混同されていたのが取捨選択され、やっとここ数十年前くらいからこの名前が使われるようになり、以後広く認められてきた。ファ-ブルの才能を持ってして も、現代の解釈を彼が前もって知ることはもちろんできなかったが、ただ指針としたのが  Quélet  だけだったのは、残念ながら彼を間違った方向へ導いてしまった。

        アワタケはどこにでも見られる小型のイグチで、食用としての価値はあまりない。多数の品種があって、その全部はまだ知られていない。


 

42_Boletus_subtomentosus

42-  Boletus  subtomentosus        《1890年9月26日》

 解釈:Boletus  subtomentosus  L.:Fr.(= Xerocomus  subtomentosus [L.:Fr.] Quél.

異名  :Boletus(Xerocumus) lanatus

和名:アワタケ  (アワタケ属)】

     このキノコの同定は難しくない。アワタケ属の代表的な特徴である、全体がすらりとして、柄は細くやや不定形、傘の表面は乾いていてすぐにひび割れになる、 肉は薄くて《腰がなく》多少青変する、孔口はイグチ属の大型のキノコより大きい、等の特徴は既にどこへ属するものか明らかである。特にファ-ブルの絵に は、アワタケの本質的な特徴である、柄のたてじわが上部にかけて網目となり交差し始める細部がはっきりと描かれている。この種は通常、傘の色は黄土色であ るが、淡いオリ-ブ色から赤褐色まで成育条件によって異なり、ほとんどの品種がまだはっきり類別されていない。従って、この図版のものは基準品種で、特に 大型のキノコである。

      あっちこっちに見られるこのアワタケは、食用であるが、料理に使うほどの妙味はないのでふつう無視されている。



 

43_Gyrodon43-    Gyrodon     《1891年10月27日》

 解釈 : Boletus  rubellus Krombh.(Xerocomus  rubellus  Quél.)

異名  :Boletus (Xerocomus) versicolor  Rostk.

【和名:コウジタケ  (アワタケ属)】

      ファ-ブルは、まったく実物にそっくりのこの図版のキノコに、ぴったりの名前を見つけることができなかったが、しかし一度だけなら構わんだろう。ヨ-ロッ パでは  Gyrodon  属【ハンノキイグチ属】にはたった一つ  Gyrodon  lividus 【ハンノキイグチ】があるだけです。その特徴は、肉は薄く、管孔は短く迷路状で柄のほうにまで長く伸びており、柄はこのイグチにしては少し細い。ファ-ブ ルは彼のキノコの管孔がかなり短かったのでそれに惑わされたのではないかと思われる。

      Boletus (Xerocomus) rubellus  は小型のキノコで、夏と秋にいたるところに大量に発生する。傘は遠くから見ると、深紅のビロ-ド状のボタンをおもわせるが、この美しい色も太陽にさらされ るとすぐに色褪せてしまう。公園、牧場を囲む木の下、森の平坦な小道の草の中などの湿った場所を好んで発生する。食用であるがあまり美味しくない。このイ グチは  Boletus (Xerocomus) armeniacus  としか混同することはなく、その肉は柄の下部がオレンジ黄土色であるが、Boletus  rubellus  はこの図版で見られるように赤葡萄酒色をしている。

 


 

44_Boletus_chrysenteron44-    Boletus  chrysenteron   《ファ-ブルは名前を付けなかった》       《オランジュ【地名】1878年5月28日》

解釈:Boletus  chrysenteron  Bull.(= Xerocomus  chrysenteron  [Bull.] Quél.)

異名  :Boletus (Xerocomus) pruinatus  Fr.?

仏名:BOLET  A  CHAIR  JAUNE  【黄色肉イグチ  の意】

【和名:キッコウアワタケ(アワタケ属)

      傘が単一の黒褐色で紫色の艶がかかっていることが、判別の障害となったのか、ファ-ブルがこのキノコに名前を付けなかったのは驚きである。しかしこれは キッコウアワタケであり、いたる所に見られる種で、食用であるが美味しくない。傘は赤色でひび割れがあるので(いつもではない)判別が簡単である。傘は乾 いて、オリ-ブ色がかっているが、通常この図版のものより、もっと濃く、柄もこれよりもっと濃い赤葡萄酒色である。肉の葡萄色のしみは逆に頻繁に見られる 特徴である。

      この種は子実体の成長にかなりの湿り気が必要なので、雨が降れば夏以外でもその発生を見るのは珍しくない(特に南仏)。ファ-ブルはこのキノコを五月に採集し、それには傘にひび割れがなかったので、同定の妨げになったのではないかと思われる。

      キッコウアワタケは、小さなグル-プのかなり変化の多い種で、たくさんの同義語あるいは近縁の種類が菌学の著作に書かれているにもかかわらず、このグルー プはいまだよく類別されていない。この図版のキノコの色や断面図の短い管孔から見て、B.pruinatus  に似る