31 Boletus subtomentosus, 20 7bre 1890 pl 83


31   B. subtomentosus         《1890年9月20日》
解釈: Boletus radicans  Pers. : Fr.

      このキノコの特徴は28番の図版を参照。

      ファ-ブルは28、29、30番では Boletus candicans としているが、ここでは Boletus subtomentosusアワタケ】と呼んでいる。しかし、これは現代解釈で Boletus radicans (=ファ-ブルにとっては candicans)であり、それはアワタケと対立する多くの特徴が確認されている:

  • 傘の肉と管孔部は厚すぎる。
  • 管孔部と柄との関係は《離生》タイプ(管孔は小さな谷で柄と離れているが、アワタケのはやや垂生)である。
  • 管孔は細すぎる。
  • 柄の下部の形はアワタケのものではなく、柄もずんぐりしすぎている。
  • 肉の青変が少し強すぎる。
  • 傘の表面の色は薄すぎるし、ひびの割れ方が特に radicans  タイプであって、アワタケのものではない。

      こうしてみるとかなりの異なる点があって(いくつかの特徴の中にはもっと検討を要するものがあるにしても)、その全部を一緒にするとやはりradicans になる。この二つの種類を熟知している人にとっては最初から一目瞭然であろう。

 

32 Boletus Refait avril 1893 Jean-Henri FABRE

32   Boletus radicans    (ファ-ブルは名前を付けなかった)       《1893年8月に描き直す》
解釈: Boletus radicans
Pers. : Fr.

      このキノコの特徴は28番の図版を参照。

      ファ-ブルはこの図版に名前を付けなかった。それはたぶん中央の大きなキノコが奇妙な様子をしているせいだと思われる。それ以外は、断面図がなくとも、同定は難しくなく、そのうえ二つの若いキノコの様子がもっとそれを簡単にしてくれる。碁盤状のひび割れに鱗片をちりばめた、問題のこの傘の表面はそれほど珍しいことではない。それは成長の早いキノコが、突然の大風でそれを妨げられたり、あるいは雨のあと太陽が急に照つけたときなどには、傘はもっと深くひび割れて肉がのぞく(31番の図版はこの現象の初期のもの)。

      この一連の5枚の B. radicans を振り返ると、ファ-ブルはこの種の様々の異型を見つけ、それを描き、彼の並外れた観察眼がそれらを区別した。しかし一つの種の中の変異性を知る機会がなかったので(それを知るためには何年もの歳月を要する)、同じ種にまとめることができなかった。もう何年か観察を続けたならば、ファ-ブルは必ず、柄に欠くことのできないとても細かい網目を見つけ、肉の苦味の有無を確かめ、これらのキノコが同種であることが簡単にわかっただろう。

 

 

33 Boletus purpureus, 14 7bre 1892, page 174 pl 71

33 -    B. purpureus     《1892年9月14日》

解釈:不確か、Boletus radicans Pers. : Fr. ?

【和名:なし、アシベニイグチに近い種】

      疑問符を付けてもこの図版の解釈は全員の合意に達しないだろう、しかしこれより外に満足すべき解決を見つけられなかった。大型のイグチの中の新種という可能性もありそうにないので、この不思議なイグチを見るとすぐに二つの名前が浮かんでくる。

      柄にはっきりした網目があって、下部は赤みがかり、管孔部や孔口は黄色で、白ぽい傘には桃色の縁どりがあるといった特徴から、最初は、B. fechtneriB. pulchrotinctus を想定した。しかしその仮定にはいくつかの予盾する細部があって、もっと深く研究する必要がある。

      B. fechtneri は好熱性で、石灰質の土を好む、あまり知られていない種である。このイグチは、図版の子実体が持つほとんど全ての特徴を有するが、異なる点は:

  • 管孔部と柄との関係は、図版のキノコの管孔は離生で柄とはっきり離れているが、B. fechtneri の管孔はほとんどいつもやや直生で柄に付くが、ほんの小さな谷で柄と離れている場合でも、最後の孔口が柄の部分にはっきり降りているのがわかる。図版ではそれは見えない。しかし実際においても、この重要な特徴を識別するのは難しい。
  • 図版の管孔は B. fechtneri にしては長がすぎる。
  • 柄も少し細すぎてどこか違った様子である。
  • B. fechtneri の柄の下部は(表面)薄い赤色であるが、この色はいつも見られるとは限らない。

      しかし、傘の縁部の桃色の縁どり、だけでは結論をだすことはできない。その特は他のいくつかの種類にも共通して見られるが、B. fechtneri  には珍しい(この特徴が存在しないと言う人もいる)。同じく、ファ-ブルの B. radicans には肉の青変が一定していないので、この図版から、青変(あるいは緑変)が不在というだけで結論をだすことはできない。

      以上の多くの異なる点を検討した結果、このキノコはどうも B. fechtneri ではなさそうである。

      ではもう一つの仮定は、新種の B. pulchrotinctus Alessio (1985年)である。このイグチも、傘は白ぽく、縁部は薄い赤色をおびた桃色で、孔口面は黄色、柄は網目があるので、図版のキノコに近いと思われるが、しかし今回もまた矛盾する細部がある:

  • B. pulchrotinctus の柄の下部の表面が赤葡萄酒色なのは考えられるが(珍しい)、ふつう柄の内部にはまったく(?)それを見ることがない。
  • B. pulchrotinctus の肉は、傘の表面近くにとても特徴的なシクラメンの赤桃色の細い線が、ほとんどいつも見られる。図版にはこのゾーンは見られないが、この特徴はいつも一定しているとは限らないので、最終的な結論を出すことはできない。B. fechtneriB. pulchrotinctus のどちらも青変するが、ファ-ブルのものにはそれがない。ふつう、キノコを切った数分後のものを描くが、この図版の管孔部や肉は青変していないので、おそらく切った直後か、一時間余り後のものを描いたのではないだろうか(通常、一時間以上経過するとこの青色は消えてしまう)。
  • B. pulchrotinctus の孔口がこのように黄色なのは珍しく、ふつうはもっと濃いオレンジがかった黄色か赤色である。 
  • 柄は少し細すぎて、B. pulchrotinctus らしくない。
  • 採集の時期が一月ほど早すぎる。ふつうは10月から11月中旬くらいまで。
  • しかし、発生地域は地中海(フランスではラングドク地方とプロヴァンス地方)で合っている。

      従って、現在知られている種類の中ではたった一つだけ B. pulchrotinctus という仮定が支持できる。

      でも...でも,ここで三つ目の仮定が考えられる。この図版に見られるすべての特徴から、もし”傘の外縁部の赤桃色の縁どり”を除くと、それは Boletus radicans (またこのキノコか!)になる。《ふつう》の radicans がよく出るところに、縁飾りのあるものが採集されたことがある(ほとんど稀なケ-スで菌学の文学にほんの僅か記されているにすぎない)。何故、この《異常》なキノコにファ-ブルが出会ったことを認めないのか?

      もちろん、この解釈には危険が伴うが、菌学的には一番食指をそそられるところから慎重を期してこの解釈に疑問符をうった。

 
 

34 Boletus edulis 7bre 1891 Jean-Henri FABRE

34 -  Boletus edulis    (ファ-ブルは名前をつけていない)  《1891年9月》

解釈: Boletus edulis Bull. : Fr.

仏名: Cèpe comestible, Cèpe de Bordeaux

【食用セップ、ボルドーのセップ の意】

【和名:なし、(ヤマドリタケ?)】

      キノコ愛好者の中で有名な「ボルドーのセップ」を知らない人はいない。どこの市場でも売られており、そのすばらしい味に人気がある。多くの人にとって、そのキノコは料理の華といえる。この評判の高い Boletus edulis が情熱を掻き立てるあまり、自然の贈物である美しい森が、時には狂信者や商売が目的の人々に侵略され、持ち主や自然の静謐を愛する森の近くの住民との間で問題が生じることもある。「セップ」探しの伝統は私達の文明の初期頃から延々と続いてきたものです。特に南部ではこのキノコの料理に油を使う伝統があり、それは長い間地中海沿岸の住民に許された特権でもあった。               

      このイグチは、緯度、高度、土地の条件、樹木の種類によって様々に変化する。ファ-ブルのキノコは、傘がふつうより濃褐色であり、縁部が褪色していないといった特徴が典型的ではないが識別できる。それは Boletus pinicola  【= B. pinophilus,松を好むヤマドリタケの意。和名=?】を想い起こさせ(針葉樹や広葉樹林に発生するマツに関係をもつ他のいくつかの粘性のイグチと間違わないように)、B. edulis にとても近い種類で、あまり頻繁に見られず、食用で同じくとてもおいしい。傘はマホガニ-色に近く、柄は図版よりもっと濃い色合があり、全体のシルエットから、この図版のキノコを B. pinicola と呼ぶことはできない。もう一つの種のススケヤマドリタケは、特に若いキノコの傘の色が黒色で、図版の赤褐色と全然一致しない。ファ-ブルのキノコにはほんの僅か疑問が残り、それはおそらく、地域的気候条件によるものだろうが、同定者にとってはなんとなくスッキリしない。

 35 Boletus ericetorum sp nov 4 9bre 1888, p

35 -  B. ericetorum  sp. nov. 【新種】        《1888年11月4日》

解釈:Boletus impolitus Fr.   【ざらざらしたイグチ  の意】
和名:なし。
Leccinum hortoni (シワチャヤマイグチ)に似るが、Boletus regius (アケボノヤマドリタケ)に近い種

      ファ-ブルの時代には Boletus impolitus は、むしろ珍しい種で,ほとんど描かれたことがなかった。例外は1863年に  Fries  が出版した自らの図版があり、それは彼がこの種の名前を作った数年後のことである。ファ-ブルは  Fries  の図版を知らなかったと思われるので、自分の採集したキノコを同定するときに多分困って新種を作ったのだと思う。

      ファ-ブルがとても精密に描いた柄の細鱗片は重要な細部の一つです。ヌメリイグチ属のいくつかの種、例えば Suillus collinitusのような粒点ではなく、ここでは細鱗片が浮き出て見える。柄の表面はプロヴァンスの常緑の樫によく出る Boletus (Leccinum) lepidus に似るが、断面すべての肉が桃色になるのに、ファ-ブルのは柄の中部しかならない。その上 B. lepidus の柄はもっと長く、ほとんど上下同大で、図版の右のキノコとは一致しない。B. lepidus の傘の表面は幼菌ではふつう黄土色をおびた黄色、やがて成長と共にますます褐色が濃くなっていく。図版のキノコは三本とも傘は単一の栗色なので、やはり B. lepidus ではないと思われる。

      一番良い解釈は、柄の中部の桃色は非常に例外的なので、条件付きということで B. impolitus しか考えられない。

      このキノコは稀で、ヨ-ド臭がありあまり食用としての価値はない。

      ファ-ブルは自分が採集したキノコの種の名前を、菌学の本の中に見出せなかったので自分用に  《エリカの》という意味のericteorum の名前を作った。その名前はあまり同定の助けにはならなかった。