23 Boletus flavidus granulatus b

23 -  Boletus flavidus Fries        《1889年11月21日》
解釈: Boletus granulatus
L. : Fr. [Suillus granulatus (L. : Fr.) Roussel]
【和名:チチアワタケ
(ヌメリイグチ属)

      この図版にファ-ブルが付けた名前は正確ではない。この種を類別した Fries と他の作者にとって Boletus flavidus はつばを持つキノコである。この間違いが何に所以するのか解らないが、一つ推測できるのは、ファ-ブルは、Quélet のフロラ (Champignons du Jura et des Vosges, supplément,1880年)を参照し、それには、残念ながら、つばのことは書かれていないのである。

      この図版のキノコは、いたる所の松林に豊富に生える、チチアワタケチであることが簡単に識別できる。傘、孔口、柄の色は典型的で、柄の上部には控え目な粒点が見られる。管孔は垂生、柄がちょっと短いという二点を除けば、特別の変種を作る必要は今日までなかった。チチアワタケは食用であるが、前図で既に述べたように南の地域では慎重でなければならない(下痢)。

 

 

24 bis Boletus granulatus Linn

24 - Boletus granulatus  Linn. 

《1893年9月22日、松の木から遠くない Erica vulgaris 【ヒ-ス】が生えている台地》

解釈: Boletus bellinii  Inz.[= Suillus bellinii (Inz,) Kuntze]
和名:なし、(チチアワタケ節、ヌメリイギチ属)

      ファ-ブルは、この図版のチチアワタケの同定にはあまり間違いをしなかった。これは、傘が粘性(非常に粘性とさえ言える)で、柄には細粒点(斑点)を持つ、松林に生えるイグチである。しかし、この細粒点は赤味を帯びた濃い紫で、ほとんど白色の柄の上にそれがくっきりと浮び出る。そして、傘は濃いクリ色(ほとんど単一色)で、管孔はほぼ垂生、柄は比較的短く成長にしたがい基部が細まる。

      傘の単一色以外の特徴は、Boletus (Suillus) bellini のものである。このキノコは地中海沿岸や南部大西洋岸(しかし例外的な微気候のお蔭でシェルブ-ルくらいまで上ってくる)の松と関連して、豊富な発生をする。傘は若いときは象牙色であるが、たちまち中心部からチョコレ-トがかった褐色に変わっていく。暑くて乾燥した気候ではそれはなおさら早まる。

しかし、B. bellinii の傘の縁部は長い間白いまま残っているが、ファ-ブルのこの図版にはそれが欠けている。その特徴はしばしば同定の重要な手掛かりとなる。断面図の白い肉は間違いなく B. bellinii であることが確認できる。従ってこれは、暑さと乾燥というプロヴァンス的気候下の傘の外縁部の通常的特徴を欠くキノコ、という解釈ができる。

 

 

25 Boletus roseus sp nov b

25 -  Boletus roseus sp. nov. 《1889年11月8日、ラガ-ル松林【地名】》
解釈:Boletus amarellus
Quél.  [=Chalciporus amarellus (Quél.) Bat. ] 【やや苦いイグチ の意】
異名:
(Boudier) Bon ]
【和名:なし  (コショウイグチ属)】

      かってこれほど見事にこの種類の特徴を表わしている水彩画は見たことがない。これはフランスの東南の一部にしか知られていないキノコです。傘はふつう 2 ~ 3 cmで、我が国ではおそらく一番小さいイグチであろう。

      小型のキノコであるために同定に疑問は起きない:淡いピンクとふんわりした感じの孔口はこのイグチの独特の特徴です。しかし、このピンク色はやがて赤みをおびたオレンジ鉄褐色に変わる(26番の図版を参照)。このように色が変わってしまうと、このキノコより少し大型のありふれたコショウイグチ (Boletus piperatus) と混同することがある。コショウイグチは危険ではないが、あえて味見をすれば、とても辛いので簡単に判別できる。B. amarellus (やや苦いイグチの意)はその名に反して肉はほとんど無味である。味や嵩の点で食用に適さない。

      B. amarellus  は針葉樹と深い関係があり、かなり小さいので、人目を引かないが興味のあるキノコで、南仏の平野部や低い山のアレップ松や常緑樫類下に、ほとんどいつも他のキノコと一緒に発生する。それは白い芋状で、トリュフに似た (Rhizopogon briardi 【ショウロ属の一種】) キノコで、地面にすれすれの所に生える(プロヴァンス地方、とくに  ポルクロール島)。もっと高い山(アルプス,ジュラ)では、B. amarellus はいろいろな松またはモミ、トウヒ、マツの混合林に見られる。高山では(アルプス)1800mの高度までトウヒを求めて、このキノコは上っていく。

      現在まで、プロヴァンスで採集された B. pierrhuguesii と山の種である B. amarellus を区別することができなかった。今日でも amarellus   がこの種にふさわしい名前かどうか専門家の間に問題を残している。既に他のイグチに付けられている B. roseus の名前の代わりに、もしファ-ブルが、1883年以前に自分のキノコを別の名前で発表していたならば、この問題は解決されていたにちがいない。

 
 

26 Boletus roseus sp nov b

26 -  Boletus roseus sp. nov.  《1889年11月3日、ラガ-ル松林 【地名】》

解釈:Boletus amarellus Quél. (=Chalicipous amarellus [Quél.] Bat.) 【やや苦いイグチ の意】

【和名:なし  (コショウイグチ属)】

      このイグチの特徴は25番の図版に記述している。 前の図版だけでもはっきり同定が可能だが、この図版は更にそれを補足している。最高の発育条件が整えば(稀である) B. amarellus の傘は最大径 5 cmにも達し、時にはそれを越えることもある。

      25番の図版に描かれていなかったいくつかの特徴が、この図版では次のように明らかになっている:

    -断面図によると、管孔は鉄さび色をおびた黄土色、肉は白っぽく、傘の表皮の下の肉は黄色みをおび、特に管孔に接する部分の肉が鮮紅色をおびた桃色紫なのが特徴です。

    -傘の縁部周辺の表皮は鮮紅色をおびた桃色、しかし実際にはこんな濃い色に出会うことは珍しい。

    -成長した子実体では、孔口は最初の桃色から鉄さび色をおびた黄土色(管孔の色)になり、この色の変化は、柄の付け根から傘の縁部の方へ移っていく。

 

 

27 Boletus duriusculus b

27-Boletus duriusculus Kalchbr.  《1889年10月19日、ククルドン  【地名】、ポプラの下》

解釈: Boletus duriusculus Schulz. : Fr. (= Leccinum duriusculum [Schulz. : Fr.] Sing.【やや硬いイグチ の意】

【和名:なし、ヤマイグチ  に近い種】

      このキノコは、がっしりしていて、肉が硬く (duriusculus の意)、全体の色のコントラストが際立っているので、見過ごすことはない。しかもヤマナラシ属(ポプラ)とだけ結びついているかなり稀なイグチである。しかし、温かい地方では、一年に何回も同じ場所に生える。

      ファ-ブルのこの図版には疑問が一つもない。驚嘆すべき柄の正確な描写だけで十分にこの種の同定が可能である。たくさんの細かいすす色褐色の粒点が、徐々に柄の下部を覆っているのは全くこのキノコの特徴です。柄の下部は少し根状で青色のしみが広がり、傘は褐色(時にはもっと薄い色合で、細かくひび割れていることもある)、孔口は殆ど真っ白。このキノコは食用で、時には驚くほどの群生を見ることがある。

      かって、これほど忠実にこの  B. duriusculus の特徴を表わしている作品をみたことがない。

 28 Boletus candicans b

28 -Boletus candicans  Nob.      《1892年9月27日》

解釈: Boletus radicans Pers. : Fr.
異名: Boletus albidus Roques,B. pachypus Fr. : Fr.(?), B. candicans Fr. : Inz. (?), B. eupachypus (Konrad) Imler, など
仏名: Bolet blanchâtre, Bolet radicant
【和名:なし、アシベニイグチ  に近い種】

 

      この図版はとても忠実に描かれているので、同定に何の疑問もない。特に次の点が観察できる。

    -傘は白色または淡い灰色で(Boletus satanas [40番の図版]と同じような)、光沢がない(柔らかい微繊維の感触)。

    -傘の縁部は耳たぶ状に波うち、わずかに管孔の方に巻き込んでいる。

    -管孔と孔口は黄色。

    -管孔は小さな谷で柄から分かれる。

    -柄はかなり短く、不規則形で、基部で急に細くなりやや根状をなす。

    -柄は白色で、ところによっては灰色、わずかに赤味を帯びたしみがある。

    -肉は白色で、切断すると傘の肉は青変し、柄の下半分は赤味を帯びる。しかしながら、柄には網目が欠ける。

この網目は微細なので簡単に見過ごしてしまう。ファ-ブルが描いたこの種の五枚の図版には、一枚もこの網目が描かれていないのは不思議である。網目をもつ他のイグチの図版には、完全にそれが描かれている。

      同じく、ふつう新鮮なものは青変するが、この断面図にはそれが描かれていない。この青変は、特に乾燥している地方では消えやすく、かろうじて見分けられるくらいである。

      この図版のものは完全に成長した子実体で、柄も孔口面も白色から灰色褐色に変わっているところから(本来は、はっきりした黄色であるがそれも消えやすい)、乾燥時に採集されたものだと推測される。

      Boletus radicans は、石灰質の土を好むが、時には中性の土地にも発生し、好熱性で、南部や温暖な地域では頻繁に見られるが、北になればなるほど日当たりの良い丘へ避難する。

      これは傘の径がらくに15~20cmにも達する見事なキノコで、ふつう、カシやブナの林内、草のなか(最大径のものが多い)、森の周辺、空き地に発生する。温暖地域では7~8月に嵐の後に発生するが、南部ではそれよりもっと遅れる。

      このイグチは危険ではないが苦いので食用には適さない。

      傘の特徴は一定しているが、反対に、柄はとても変化に富んでいて、多かれ少なかれ根状、多かれ少なかれ黄色、多かれ少なかれ赤味をおびた葡萄酒色のしみや細点がある。乾燥した気候では、柄は簡単に変形する。この七変化が、現実にはたった一つの種に、様々の名前をもたらしたのではないか。

Boletus candicans の歴史について: なぜファ-ブルは、菌学の文学に candicans として既に存在している名前をこのイグチに付けて、自分のものにしたのだろうか(《Nobis=わたしたち》)?

      Boletus candicans の名前が、1874年に Fries によってつけられたのは周知のことで(複雑な歴史をひもとけば、Inzenga の方が少し以前であるとさえ言われている)、この名前は次に Quélet  に引き継がれた。ファ-ブルは Fries と Quélet の著作を持っていたので、Fries が   B. candicans をはっきり紹介せずに、この種の存在を単に推定で発表したことに気が付いたのは確かである。

  他方、Quélet(1886年)は付加形容詞 candicans をためらいながら取り入れたが、すぐその後、彼の大作(フロラ  1888年)のなかでそれをまったく放棄している。二人の先生が、自から提示さえしたこの名前を見捨てるならば、ファ-ブルはこれを自分のために(少なくとも個人的な使用に関してはまったく自由である)自由に使えると信じて、採集したキノコに使ったと思われる。

      現在では  B. candicans B. radicans の異名にする解釈が多い。

 29 Boletus candicans b


29-Boletus candicans Nob.  《1891年9月5日、1892年》

解釈:Boletus radicans Pers. : Fr.

【和名:なし、アシベニイグチ  に近い種】

      このイグチの特徴は28番の図版ですでに記述した。 この断面図の管孔面は緑色であるのがよくわかるが(この色はやがて青変する)、ファ-ブルは28番の図版とは逆に、この《青変》をここでは肉に描いていない。しかしそれは些細なことで同定の妨げにはならない。同じく、柄についても注目すべきは、一方のキノコには赤みがかった色の、そして他方には灰色がかったつばのようなものが見られることである。しかしこれはそれほど珍しいことではない。

 

30 Boletus candicans vieux b

30ー Boletus candicans vieux    《1890年10月13日、1892年》

解釈: Boletus radicans Pers. : Fr.

      このキノコの特徴は28番の図版を参照。

      この図版のものは、傘が、29番の図版に比べると、より平らで(成長時)、中心部が褐色である。また、柄もより紡錘形で基部で急に細くなっている。以上の特徴に加えて、孔口面が《汚い》ということが、これらのキノコが適切な気候条件下に育たなかったことを示している。特に乾燥、風、または土地の良し悪しが強調されて、老朽化が始まるのをファ-ブル自身が確認している。しかしながら、切断面の肉と管孔は青変し赤みがかった色が柄の下部にはっきりと窺われる。

      このキノコの柄の形から、何故このイグチが radicans と名付けられたかが良くわかる。